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工学部で開催された第59回水環境フォーラム山口に参加し、周防灘の水質の推移と水産業の関係などについて勉強になりました。

2022年10月05日

 水環境フォーラム山口は1992年度より、夏は山口大学工学部、冬は山口県環境保健研究センターで開催されてきました。2022年夏は30周年にあたりますが、今年度からは年1回になるそうです。

午前中は特別講演3題で、豊橋技術科学大学の井上隆信さんによる、三河湾への栄養塩の流出負荷特性に関するお話、次いで国立環境研究所の撒牧秀明さんによる山口県周辺海域での栄養塩等の長期変遷に関するお話、三つ目は愛媛大学の吉江直樹さんによる栄養塩類から高次栄養段階生態系までを取り扱う統合モデルの現状の課題についてのお話がありました。いずれも参考になりましたが、写真撮影やSNSでの発信等原則禁止ということでしたので、関連の情報をネットで検索して、引用し、要点を論じる形にしました。

 まず、井上さんの講演では、三河湾の湾奥部では、なお貧酸素域が見られ、富栄養化問題がまだ継続していること、2006年から2011年にかけて、井上研究室によって降雨時を含めた精力的な河川調査が行われ、全窒素TN、全りんTPの流出負荷の研究が行われ、
・降雨時の流出負荷量を考慮しないと、発生負荷量はとくに農耕地等の面源負荷について非常に過小評価になること、
・たとえば、大学の近くを流れる梅田川の支流、浜田川の調査結果によると、降雨時を含めた流出負荷量はTNの場合、総量規制の負荷量3.3トン/km2/年に対して17.1トンと約5倍、TPは0.52トン/km2/年に対して3.65トンと約7倍であった。これは農地の中でも、果樹園や園芸作物など、肥料を十分に与える農地の影響が大きいとされました。

 農地からの流出率はTN、TPについて、一昔前は、それぞれ30%、3%程度とされていましたので、おそらく農地土壌のTP濃度は徐々に増加し、土壌粒子が雨で流されると、TPの流出率は昔に比べて大きくなっていることが推測されます。
 これが、海域に入って底泥に堆積して、貧酸素状態では、Pの溶出が起きることになります。

ネットから、三河湾の水質の状況を調べてみました。
底質のCODの情報がありました。冬場は有機物の分解速度が落ちますので、底質は比較的良好なはずですが、1985年1月に比べると、2001年1月や、2011年2月には底質はかなり改善されていることが分かります。

水質も最近はやや改善されているようです。

 次に、牧さんの講演では、山口県の瀬戸内海沿岸の漁火雨量の推移や環境部署による公共用水域水質調査と、水産部書による浅海定線調査の結果を整理して、栄養塩類の長期変動など、水質の推移やその要因について詳しく説明していただきました。

 プレゼン中に示された図と少し異なる図ですが、環境省の資料から瀬戸内海の底層DOの水平分布図ならびに透明度分布図を、それぞれ上の1982~1984年度および下の2016~2018年度の状況を引用しました。
https://www.env.go.jp/council/09water/y0920-05b/ref02.pdf

 両者ともこの30年強の間にかなりの改善が見られます。

 底層DOについては大阪湾奥部でかなり低い部分が見られますが、最近はやや改善が見られます。播磨灘は東部を主として管理改善され、周防灘西部も改善が見られます。

 透明度は、播磨灘北部でやや悪化、山口県東部沿岸は改善が見られます。

 プレゼン中、示された全窒素濃度の分布図では播磨灘全体で周防灘と同程度の程度濃度になっていて、兵庫県が全窒素、全りんの水質目標値(下限値)としてTN濃度分布0.2mg/l、TP0.02mg/lを設定したとのことでした。
https://www.kankyo.pref.hyogo.lg.jp/application/files/4615/7178/9891/02.pdf

 牧さんのプレゼンでは、主として水産部署による浅海定線のデータを利用して、1980年代から2010年代までの長期変動トレンドを解析され、、地点ごとに減少率という形で示されました。

 環境部署による公共用水域水質調査の場合は、測点が沿岸近くに限られ、沖合いのデータが少ないとされましたが、環境省では広域水質調査として、沖合いを含め、年4回の測定が行われていて、浅海定線ではTN、TPではなく、溶存無機態窒素DIN、溶存無機態リンDIPであるため、ここでは、このデータを紹介します。

 非常に便利なサイトがあり、クロロフィルaについて1985年夏と2019年夏の結果の比較を示しています。
講演中、印象に残ったこととして、山口県に面した周防灘の沿岸では栄養塩濃度は明らかに低下しているが、沖合部ではさほど低下しておらず、クロロフィルaもあまり低下していないと言うことでした。
 しかし、この図を見ると、沖合部でもやはり低下しているように見えます。

 もう一つ印象に残ったこととして、沖合部のDINやDIPは黒潮の下層水から豊後水道を経て、供給されているのではないかとされたことです。その根拠として、豊後水道におけるNO2,3-Nの鉛直分布のデータでした。下層部に高濃度のNO2,3-Nが見られたデータが示されました。
 その可能性は十分あると思いますが、塩分とDINが創刊があるということで、すべて外界水由来と考えるのはやや過大評価につながるのではないかとも思います。つまり陸機嫌のNがプランクトンに吸収され、その一部が底に沈殿し、分解して溶出してくるものもあり、沖合の下層には表層に比べて塩分が高めの水があり、DINと塩分が所為の創刊を示すこともあるからです。

 これら3枚の図は、周防灘沿岸部のアサリ漁獲量とDIN、DIP、クロロフィルaの1991年から2016年の推移を示したものです。 
DIN、DIP、クロロフィルaは漸減しているますが、アサリは2008年あたりからほとんどとれなくなっています。欲物プランクトンはアサリの主な餌である。と思われますが、これだけで、アサリの漁獲が決まるわけではありません。温暖化や、食害、乱獲の影響もあります。

 さて吉江さんの講演ですが、講演予稿集にも資料がありませんでしたし、結構話も複雑であったので、ごく印象に残ったことだけ、報告することにとどめます。

高次生態系モデルを含めた統合モデルは、海洋物理モデル、低次生態系モデル、底生生態系モデル、漁獲等の影響も含めた高次生態系モデルをまとめたものでなくてはならず、それらの部分部分についてもまだ構造が明らかになっていないことが多いようです。

 とくに注意しなくてはならない点として、海水温の上昇によって、低次生態系の成り立ち自体が異なってきて、食物連鎖が高次生態系まで、スムーズに行かなくなっているという指摘でした。そのほかでもアサリを食害するナルトビエイも温暖化により、増加した外敵です、

 椹野川河口域干潟自然再生事業で当初から言われていた、「順応的対策」が大事ということになるでしょうか。

 蛇足ながら、4枚目の図は、春の大潮の上げ潮の流れについて、示されていますが、豊後水道から入った外海水が、一部関門海峡を通って響灘にも移動することを示唆していて、午後の部の一般講演での山口県環境保健センターの下尾さんの発表の中で、響灘沿岸の海浜でもカキ養殖のパイプが見られるということに関係して、参考に添付しました。
(文責:浮田)

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