特別サロン :「弁当の日」の実践を通して学んだこと(山田耕三先生)の報告です。
2022年09月22日
9月17日、宇部市教育委員会教育支援課の山田耕三先生に「弁当の日」の実践を通して学んだことをお話していただきました。
教育支援課では以下の課題を担当しているということです。
○生徒指導(いじめ問題、不登校問題)
○特別支援教育(就学支援相談、インクルーシブ教育)
いずれも現在、教育界において全国的に関心のもたれている課題です。
山田先生は、2018~2020年度まで3年間、岩国市立周東中学校の教頭を務められ、昨年度より、教育支援課の課長同格として、忙しい毎日を送っておられます。
ESDについてもその必要性を充分認識され、食育については、2005年に食育基本法が制定され、学校教育における、知育・徳育・体育を支えるものとして位置づけられているとされています。
たとえば、朝食の摂取と学力の間には明確な傾向があることを示されました。関連するでしょうが、家庭でのコミュニケーションと学力の間にも同様の傾向があるようです。
#弁当の日 #食育
周東中学に行かれた2018年度の前年度は宇部市教育委員会学校教育課におられました。
もともと、山田先生は中学校の理科が専門で、内容に追いついていけない生徒もおり、また比較的大きいいわゆる困難校の勤務が長く、生活指導に関わることも多かったということ。陸上部の部活指導でも生徒からはこわがられていたということです。
問題行動のある生徒に、強い指導をすると、かえって強い反発・荒れを招くことになるそうです。
さて周東中学校に行ってみると、心が通うあたたかい生徒集団であると感じたということでした。
これは、当時5年目の校長先生や先生方の努力によって改善がおこなわれた結果であることがわかったと言うことでした。
荒れる生徒には、すさんでいる心、自己肯定感の低さ、子どもだけの判断が多い家庭生活などの原因があり、意図の内面(心)を変えないと行動は変わらないということです。
そこで、生徒と心を通いあわせるために、➀「大切に思っている」ということを伝える。具体的には、見守り・声かけ、「いいとこみっけ」で、教員の思いを生徒同士の思いに変えて行く。
廊下に生徒全員のすべての絵を展示して、いいところほめ合う校内美術館、これは他校からの見学者も多かったそうです。
生徒同士でも、「いいとこみっけ」の樹や「ありがとう」の樹をつくらせて、満開の作桜がいくつもできたりと、様々な工夫がなされてきました。
②お互いを思いやれる学級・学年集団づくりとしては、
3年間のビジョンを持って、生徒も先生もがんばれるよう、1年生で本気、2年生で自覚、3年生で大志といった目標を掲げたり、また、やるなら日本一をめざそうと、校庭に土文字をかいたりしたそうです。
①生徒を感動させ、生き方に影響を与える としては、校長室に心に残る本を紹介したり、心のサプリになる言葉を目につく場所に掲示したり、インパクトのある人を呼んで直接話を聞かせるなど、努められてきたそうです。
そのような努力の積み重ねがあって、生徒と教職員が笑顔で交流できる学校ができてきたということですね。
さて「弁当の日」の実践ですが、目的としては、今日のテーマである本来の「食育」とはすこしずれるかもしれないが、大切な教育の一環として、以下のように掲げたということです。
・自己肯定感を高め、他者への思いやりの心を育てる
・生徒指導実践を、保護者都連携して家庭教育に応用
・家庭科と連携した食育指導
またやり方としては、生徒に「まかせる」を原則とし、年間5回実施、運営を生徒会にまかせ、その給食委員会が1回ごとのテーマを決める など
テーマのある年の例としては、簡単につくるおにぎり弁当、色合いを意識した三色弁当。栄養のバランスを考えたバランス弁当、地産地消弁当、家族へのありがとう弁当 を上げられた。
まほうの「弁当の日」として、生徒に「まかせる」、生徒を「ほめる」、生徒の活動を「うけとめる」を意識して、以下のような色々な効果があったとされました。
・弁当は単なる昼食ではなく、思いを伝えるもの、家族の心をつなぐもの、
・生徒は食べ物の大切さや、感謝の心を知るとともに、自己肯定感が高まる。
・生徒は失敗から多くを学び、生きる力を身につける。
・大人は見守る大切さを知り、子どもの成長を通じて、子育てが楽しいと思えるようになる。
・お互いを大切に思う心の育成
・自己肯定感の向上が学力の定着・向上にもつながる。
先生方も、生徒達と同様、自分で弁当をつくたれたそうです。右下の写真は、先のテーマに沿って山田先生の作られた、お弁当です。
5回目は2019年ラグビー全日本のユニホームをイメージしたもので、加工食品が多いが生徒には人気があったとのことです。
「まかせて、ほめて、うけとめる 」は弁当の日の実践に限らず、生徒指導上、重要な原則のように思われます。
竹下和男さんによれば、料理とは、食材の「命」に手間ひまというつくる人の「命」を和えるいとなみとされています。
また、別の著書では、弁当の日に込めた六つの願いを書かれており、6つめの「世界を確かな目で見つめるようになること」は中学生には少し理解がむずかしいかもしれませんが、愛情や信頼関係でつながり、世の中こうありたいとか、やがてそういうものにつながるということでしょうか。
ちなみに、竹下先生も一度周東中学校でお話をされているそうです。
質疑では、以下のような議論がありました。(順不同)
・すばらしい取り組みだが、他校への普及の働きかけはされているか。
→機会があれば、していきたいと思う。
・宇部市内の中学校へ奨められているか。
→養育委員会として推薦しているわけではない。色々な課題もある。先生方にも余裕がない状況もある。
・問題行動のある生徒や荒れる生徒は中にはいて、弁当の日の実践は難しいこともあったのではないかと思うが。
→自分が転任した時には、すでに軌道に乗っていた。ただ、保護者の方にお十分名説明をし、子ども達にも、自分で自分のために作るんだよといっている。
友達がおかずを作ってきて、君はおにぎりだけ作ってくるとか、協力の例もあった。○焦げの野菜をのっけた弁当もあっても、周りのモノが受け入れてくれる。自分できル範囲でやることが大事ともいっている。
・かなり手間ひまがかかり、負担に感じる保護者もいるのではないか。持ってこない子もいるのではないのか。
→弁当の日は給食がないから、全員持ってくる。とくにはじめの頃はなれないから週初めに設定することが多い。買い物なども一緒にできたりしてやりやすい。
・苦手な子や荒れる子供もいるのではないか。
→事前の指導を十分やるようにされてきた。調理実習をうまく利用したり、また特別支援学級などについては当然支援が必要です。絶対に一人で作りなさいとは言っていなかった。
やんちゃな子も作ってきた弁当を見せに来たり、友達同士食べ合ったりもあった。
・心揺さぶる教育、めざせ日本一、いいとこみっけなど、良い取組をやられていルと思う。
すばらしい目標、明快な目標を示すことが大事だと思う。
・全校展覧会や、ありがとうの桜の樹もすばらしいと思う。子ども達の発想でしょうか。→これらは先生達の発案だったようです。
・われわれからするとESDの推進が思うように進まない思いがある。われわれの側の力量不足もあるが、先生方に余裕がない、知識詰め込み、学力重視の教育を見直す必要があるのではないか。
→興味が薄いわけではないが、国からの指導要領に沿って義務教育をしなくてはならない現状がある。
・色々な課題がある中で、「弁当の日」が成功したのは、転任当初に感じられた、「心が通う生徒集団」の素地がつくられていたことが大きな要因に思われるが、どうでしょうか。
→それまでに築かれた基礎の上に、成功したという要素はある・生徒同士が助け合うこともあったし、見た目だけではないという評価とか、いじめの材料になるようなことはなかったと思う。
・それぞれの子どもの特性、いいところをみつけることが大事だと思った。小倉北区の小学校で学級改善をやられた菊池省三先生の取組にも通じるものがある。小学3年生の担任として、掃除をしっかりする、もめ事を仲裁する、ルールを守るなど、その子のいいところをほめるたり、その子の伸びた所を指摘するようにしていると、学級が変わってくる。
→たしかに、こういうふうにやると言うだけではなく、よくやれていたらほめることで向こうから変わってくる。お互いの信頼関係の上に、いいところをほめたり、明快な目標を与えることが大事だと思う。
今回、様々な示唆に富んだお話で、一同大変勉強になったと思います。
お忙しい中、貴重なお時間をいただいた、山田耕三先生に感謝いたします。
(文責:浮田)
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