第14回環境サロン 第四部 「里山再生・アサリの養殖」 の概要です。
2016年01月10日
第四部は、田布施町別府のベリーベリーという喫茶店に移動し、元田布施漁協の組合長をしておられ、里山と里海の再生に努力してこられた木下嗣生さんにお話を伺った。
当初は、竹林伐採の現場も見せていただく予定だったが、時間がなく、腰を落ち着けて、お話をじっくり聴くこととした。
そのかわり、お仲間の若い方がドローンをとばせて、写真を撮られたものを見せていただいて、現場の状況を想像することができた。
また、独自の、牛の森林放牧を実践されている、田布施農業高校の沖野先生も同席していただいて興味深いお話を聴くことができました。
以下、第三部と同様、山切さんにまとめていただいたものに少し手を加えて紹介させていただきます。
1.スギとヒノキの植林、牛の繁殖
私は31歳の時、脱サラで宇部から故郷に帰り、ここ麻里府で半農半漁の生活を始めた。私を含めた仲間4人で麻好会をつくり、50年スギの育成と、スギとヒノキの植林を始めた。「日本は、将来、木材の輸入が出来ない国になる。そのために森林(木材)をきちんとしておかねばならない」と考えた。
私には、跡取りがいないが、そうした者の責任として、この思いから始めたものだ。スギとヒノキは、枝が密生しているので、日光が下まで届かない。このため土地が荒れ、「線香」みたいな木になってしまう。そこで45 % の強間伐をし、また、竹やぶが生い茂っていたので、100 % 駆除した。いずれも森林組合に依頼して行った。
一方、この地に若い人を呼び込み、活性化すべく、先進地を視察し、学び、その結果、牛の繁殖を始めた。TPPや牛の病気の関係で、子牛の価格相場が上がり、利益を上げることができた。
牛は森林管理(竹の駆除)に非常に役立つ。竹は一度刈っても、すぐに生えてくるので、半年ごと刈らねばならない。牛はタケノコが大好物で、放牧しておくと、タケノコを片っ端から食べてしまう。このため残った竹は、すべて老齢竹になり、やがて無くなってしまう。このように牛の放牧により森林管理は非常にうまくいっている。チェーンによる竹やぶ伐採は、今や「時代遅れ」になっている。
(参考)http://www.pref.kyoto.jp/nosoken/documents/1281595013776.pdf
2.アサリの養殖
馬島には江戸時代に作られた塩田の跡がある。ここでアサリの養殖をやったところ上手くいき、観光潮干狩りを始めた。多い年で1200人(昨年は700人/年)が来ている。養殖と言うが、稚貝を入れることも、エサを撒くこともせず、土壌改良材(マグネ、ミネラル)を撒く程度のものである。
H4年に漁協の組合長になった頃、貝が減っていたので、その原因の研究を始めた。長年かけて、研究した結果、4つの原因を突き止めた。その対策をしたところ、増やすことができた。以下、原因を記す。
(この池は車エビの養殖をやっていたが病気は発生したためH10年に閉鎖。私が組合長をしていたので、責任をとって、H13年にこの池を買い取った)。
①採り過ぎ
潮干狩りに来る人は、大きなバケツを持って来て、それ一杯取って、ふうふう言いながら持って帰る。これでは、次の世代を生む親貝が根こそぎいなくなる。この対策として予約制(1日何人)をとり、四つある池を順番に使い、1年中、定量(山盛り2.5キロ)掘れるように捕獲量の管理をした。私有地だから出来ることだ。
②夏の暑さ
アサリは4~11月に産卵する。2センチを超えるようになると子を生む。3センチのアサリで300万個くらい。メスが放卵して、その後、オスが放精する。受精して幼生となったアサリはプランクトンのように、4週間くらいで海中を漂う。一旦沈み、その場所が良かったら、着底して成長する。この時期に厳しい暑さで砂が焼けてしまうと稚貝は死んでしまう。この対策として、7月~9月の間、水門管理で海水の流入を調整し、さらに海面に20m×20mの大きな遮熱シ-トを張ることにした。大変な仕事だが、秋に確認したところ、大幅に効果があることが分かった。水の管理は大事だ。
③掘り方の問題
潮干狩りに来る人はスコップで、深掘りする。大きな水たまりを作り、砂を掘り上げる。この掘り方では、上にいる小さな稚貝が、深く埋め込まれて死んでしまう。(アサリは自分の体調の2,3倍くらいの深さの所でないと、エサがとれない。)
観光潮干狩りを始めたときに、道具として「熊手」を使ったが、シーズンが終わってみると稚貝が減っていることに気付き止めた。次年からは良くなった。掘る道具としては、岩国で蓮根掘りに使う「ハス掘り」がいいようだ。
④補食生物による食害
エイが食べてしまうのが原因といわれることがある。確かにエイも夏場、水門から入ってくる。温暖化に伴う新しい天敵だが、アサリを最も食う最大の天敵はチヌだ。池には、他にタコ、カニ、車エビなどアサリを食べるものが沢山いる。最初は駆除していたが、チヌを1、2匹、捕まえ、あとは水門を開いて逃がしてやると、その後は入ってこない。「仲間がやられた。やばい。」と言う状況をよく認識しているようだ。魚はすぐ伝わるが、カモは少し時間がかかる。
以前は、食物連鎖のバランスがきちんととれ、アサリに集中することはなかった。そこに「栽培漁業」が入ってきて、連鎖が崩れ、アサリが集中的に食われるような状態になっているのではないか。
⑤紫外線による影響
もう一つの原因として、「紫外線」の影響があるのではないかと推測している。私がもう少し若かったら、ソーラーパネルを使って、これを突き詰めてみたい所だが、やるつもりはない。
◇観光潮干狩りは今年で止めるが、環境教育や研究目的の潮干狩りは、来年以降も継続するので、皆さん、機会があれば是非、来て現場を見てほしい。潮時を含めて潮干狩りのできる日は年間40回程度しかない。
その際、今日来ていただいている沖野先生(田布施農業高教師)のお話しも詳しく聞いていただきたい、と締めくくられた。
質疑ほか:
Q:牛はタケノコが大好物と聞いたが、竹の葉っぱなども食べるのか・
A:食べる。笹の葉などもよく食べる。仔牛も元気だ。
Q:冬でも森林の中で放牧していてもいいのか。
A:かまわない。
Q:何頭くらい飼っているのか。
A:成牛4頭、仔牛1頭だ。
質疑にあまり十分な時間がとれなかったが、木下さんの現場実験から得られたアサリが獲れなくなる原因についての考察、沖野さん達がやられている牛の森林放牧で、竹林の駆除ができることなど、非常に貴重な情報が得られました。
同席された福本さんにも、農薬を使わない除草の方法などについても確認したところ、梅雨明け耕耘することで、水田性雑草が畑性雑草に変わるとか、中耕をいれるとか、米ぬか除草などなど色々な工夫を試みられているようであった。
今回、日の短い季節に4ヶ所を訪ねて、それぞれ内容のあるお話を聴くというややタイトすぎる企画で、質疑の時間をゆっくりとれなかったきらいはありましたが、学ぶことが多く、なにより素晴らしい人達にお会いできたこと、また帰りのバス中では参加者同士のコミュニケーションを図ることもでき、参加者一同は十分満足していただけたと思います。
お世話になったみなさま方に厚く御礼申し上げます。 (浮田補追)
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