R5年度第1回ESD研修会の報告(その2)大濱先生のお話と総合討論
2023年12月18日
二つ目の講演は宇部工業高等学校の大濱進治先生による「探究・課題研究(ESD・SDGs研究)と題したお話です。
大濱先生はずいぶん長い間宇部工業高校においてESDの実践に取り組んでこられ、非常に造詣の深い先生です。
宇部工業高校は化学工業科3年生の課題研究のESD研究班を対象としたESDの実践について、慶進高校グローバルコース3年生の課題解決型学習との交流状況を含めて話されました。
まず、序論として、ESDによって習得させる7つの力・態度を、常に意識して取り組むことの重要性について語られました。
1年生から3年生まで座学の授業では必ず、今日の授業はこの7つの力の何と何と何に関連しているとマグネットプレートに示して、常にESDを意識させているそうです。自分としては「批判的に考える力」が一番大事で、「鵜呑みにするな」といつも言っているそうです。
宇部工業高校では毎年、古代たたら製鉄を夜通ししてやっている。奥出雲から砂鉄、粘土、木炭を取り寄せ、木炭から一酸化炭素を発生させ、高温で、純鉄をつくる。参加した者は、総合的に色んなことを考え、次はどうするか考え、当然進んで参加し協力し合わなくてはならない等々、ESDの実践になる。作った玉鋼は護国神社内の金家来(かなやご)神社に奉納しているそうです。
その他、真締川河畔を活性化する「みずべリング」にも力を入れている。とくにここでは、サービス精神、挨拶、礼儀など顧客満足度CSIを意識するよう徹底している由。宇部工業高校のほか、慶進高校、上宇部中学校が参加している。
SDGsの17のゴールずいぶん広い範囲がカバーされており、アフガニスタンの緑化に取り組まれた中村哲さんのように、持続的にその課題に取り組んだり、技術力を活かすことが大事であり、そのような人材を育てていくこと、それがESDなんだとされました。よくESDを環境教育と混同されることがあるが、ESDは資質向上のためのプログラムであって環境教育ではないとも。
さて、本題に入り、
大濱先生の担当されている宇部工業高校の課題研究の目的として挙げられたのが、SDGsを自分ごと化すること、ESDの目指す7つの力・態度を理解し、常に意識することにより、能力を高めることの2点です。
SDGsの自分が何ができるか、何を取り上げ、自分ごととして、それとどう取り組むか考え、自らの行動変革をする。それが「SDGsの自分ごと化」であるとされ、まだそのためのESDの重要性がまだ十分に認識されていないので、その普及を図ることがESD協議会の役割だろうととされました。
2つめ、ESDのための7つの力・態度を常に意識して行動することに関しては、
小学校、中学校、高校でも授業の中でESD的な内容が教えられているのだが、それを先生方が十分意識されていない、紐づけをしていないというのが問題なのではないかともされました。意識して、ここはこれにつながるんですよと生徒にも意識させれば、効果が出るはずだとも。
ちなみに、宇部工業高校の課題研究には、毎週火曜日6時間×7週=42時間の長時間が充てられています。6時間ぶっ続けで、生徒たちが飽きないように雑談を交えながら面白く工夫してやっているとのこと。
慶進高校は、宇部工業高校と連携した探究学習として、10月24日、31日に6時間ずつ充てられたとのことです。24日はオリーブ園での現場作業、31日には慶進高校で合同授業を行った由。
自分ごと化の成果としてSDGsカードを6名それぞれ作成したことも紹介されました。
次に、慶進高校と宇部工業高校の協働が行われた10月24日の小野地区へ出張してのオリーブ圃場整備現場作業の状況、茶畑の見学と農家の方のお話を聞き、問題点を考えたことなど。
両校野球部で活躍している生徒の出会いがあったり、生徒同士の刺激になる、そしてそれぞれ自分の特性を生かしながら共同作業をする、最後には達成感を味わい、自己肯定感もつことになるとのこと。
小野の茶園を訪問したときには、かなり荒れていて、40~60年で植え替える必要があるそうですが、放棄されたところも多く、農家の経営も厳しく、生茶はキロ5円、あら茶は350円、製茶にして、6千円になるそうだが、そこまで行けないから途中で原料として、静岡や宇治などに売っているそうです。6次産業化ができていないために後継者が育たない、そういったことをしっかり生徒に見せて考えさせた、昼食はイノシシ肉を食べてコミュニケーションを図ったのこと。
また、昨年11月には宇部工業高校の3年生が慶進高校2年生にESDについてのプレゼンを行い、自己肯定感が向上することも紹介されました。
このように貴重な授業時間をとっていただくのは難しいと思うが、担当の先生の熱意によるものと感謝しているとのこと。
同様に今年度の慶進高校でのアクティブラーニングでは宇部工業高校3年生が慶進高校で出向き、互いに刺激しあう機会になったそうです。
宇部工業高校の生徒は技術的な観点からの意見が多く、慶進高校は多面的総合的な観点からの意見が多いということを認識したということです。
グループワークでは、身近な持続不可能なことについて考え、分類して絞らせ、それを持続可能にしていくにはどうしたらいいかを考えさせる。
そしてグループごとに発表させ、拍手して褒めたたえ、最後にこのワークショップで育成したESDの力は何かを考えるといったやり方になっている。批判する力という点からディベートというやり方も考えたが、これは案外否定的であって、やめようと思った。良くない点はどんどん改めていけばいいと思うとのこと。
今、中学校では部活の面倒を先生ではなくて、外部に委託するようになってきているようだが、どうしたものかと思う、高校もいずれそうなってくるかもしれない、世の中変わってってきているが、使命感を持って仕事している人がどれだけいるかということ、教師の給料を上げることも大事だと思うなどなど、色々な思いを述べられました。
質疑応答
○大濱先生のその情熱はどこから来るのか。
→学校の創立に関わられた渡邉祐策翁の書になり、校訓にもなっている「誠と熱」です。
〇二俣瀬ビオトープ等で子どもたちを対象にした親子自然観察隊活動を続けているが、せっかく興味を持ってくれた子どもたちが、先で関連した仕事に就きたいと思っても、そういう仕事は非常に限られていてもったいない思いがある。
→環境行政分野でできることは限られているが、企業が自然保護活動に取り組んでもらって、社員の中でそういう興味を持っている人に関わってもらうような動きがとれないかなということは考えている。
→先日「みずべリング」で真締川の生物調査をやってもらったように、市民団体がやることもできると思う。子どもたちはいろんなことに気づく、それを大事にしなくてはいけない。
〇二俣瀬ビオトープでの経験でも、子供たちを出来るだけ自由に遊ばせたいと思うけれども、学校のやり方をそのまま持ち込んで、自由にさせない大人たちがいて、これでは子供が成長しないなと思う。
C1:小さいときから自然と係るということが大事だと思う。やはり教職員や大人が何を目指しているのか、ビジョンがクリアでないということがあるのではないか。そのあたりの普及に努力していく必要があると思う。
→ESDに関しては、教員の方々はやっているんだけれども、それを意識できていないだけだ。意識すればよい。ESDの範囲はめちゃくちゃ広く、環境教育はESDのごく一部にしか過ぎない。教員のやっていることをほめて、自己肯定感を高め、ほめ育てることが大事ではないか。
C2:たしかに、子供にも大人にも、ほめ育てるということが大事なんですね。
→我々の場合は、先生の授業は素晴らしいそうですから、聴かしてくださいと言って、参観させてもらい、ほめることで、よりつながりが広がっていく。
C2:こども見守り隊でも、結構厳しく、子供たちに注意をしてきたが、最近になってもうすこしゆったりしていていいんだと思うようになった。
〇:村岡さんは教育に理解があり、今日の話を聞いて、行政として、ESD環境教育にここまで深く食い込んおられるのかと大変驚いた。と同時に、ESDうべ推進協議会は何をしているのかと深く反省させられた。
Co:コーディネーターが必要だ。コーディネートをしっかりして、目指すイメージを示すことが大事。みずベリングでも、身近な水辺から都市を活性化して行く。無料サービスから始めたが、経済が回らないと活性化にならない。お金を取り出すと、来る人の人種が変わる。お客から褒められたりすると学生の自己肯定感が上がるといった好循環もおきる。
○最近、まちなかのイベントなどが盛んに行われるが、それで本当にESD的な力を持ったこども達が育っていくのか、少し疑問に思う。
→十分育っている。それは参加されたら分かる。多くの高校生達が参加して頑張っている。足らないところはどんどん改良していけば良い。実際に参加してよく見て下さい。何でも否定的に見ていてはだめだ。
C2:非常にいい取り組みだと思う。
→慶進高校につづいて、鴻城高校も興味を示してくれている。
〇SDGsは2030年までの国連レベルの目標であり、達成状況の把握が必要であるが、そのあたり宇部市では評価されているのか。
→2018年夏に国から指示があり、数値目標を3年ごとに上げることになった。宇部市総合計画を参考にしながら、設定したが、SDGsの範囲が非常に広いので、一16万都市で、どう設定するのか難しかった。SDGs達成のためのマイルストーンになっているかは少し疑問な点がある。
(参考:宇部市SDGs未来都市計画については下記
https://www.city.ube.yamaguchi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/066/sdgs_plan_2nd_for_cms.pdf)
〇 全体の状況を把握するのは難しいから、身近なところで関連の評価指標の達成状況が分かればいいのではないか。また状況に応じて段階的に目標を高めていく、そういうやり方でいいのではないか。
→行政の立場では、数値目標が達せれば、それはもういいのではないかと、なってしまいがちで、やはり大きな目標を思い浮かべてそれに挑戦するという姿勢が必要で、そのような職員を育てていくことも課題だと考えている。市民対応とか、職員間のコミュニケーションなども含めて、庁内での職員教育も重要と思う。
〇ESDの観点からいうと、中学3年生で将来の夢や希望を持っている生徒の割合などは大事な指標だと思うが、最近どのような値になっているでしょうか。学校教育課では把握されていますか。コロナの影響もあると思うが。
C4:把握している。コロナの影響は大きくはなかったと思うが、もうすこし高めを目指したいと思っている。
〇この前、大学の先生から、いろんなイベントを企画するが、学生がなかなか参加してくれない。単位と関係づけると参加し、参加すれば参加してよかったと言ってくれる。積極的に色んな事に挑戦してみるという人が育っていないのではないか。
→それは、面白くないからである。面白いとわかっていれば参加する。そのためにはよく工夫したプロモーションとこまかい告知が大事。そして例年通りとかマンネリにならず、絶えず変化して進化していかなくてはならない。大体役所は、例年通りが通りやすく、あまり変化を好まない傾向がある。
平成26年度から4年間にわたり、文科省ESD研究指定校になった。とにかくジーっとしていてはダメ。エネルギーはいるが、絶えず変わっていかなくてはダメ。
〇地域の自治会をベースに、寄り合いどころなど、様々な活動をしている。また学校運営協議会も最近は生徒も加わって、話し合いをするようになっている。そういう姿勢が大事だと思う。UKCの活動にもアドバイスしてあげたらどうだろうか。
→考え方が否定的で、言うことを聞いてくれないから難しい。
C:今はなかなかボランティアで動いてくれる人が少なくなって、やりにくい世の中になっている。今年度はとくに世代交代を図るべく頑張ってはみたが、思うようには進まず、非常に悩んでいるところ。
以上のように、今回は環境政策課が取り組まれている小学校、中学校をターゲットに、ESDを意識した環境学習プログラムの整備状況と課題と、宇部工業高校と慶進高校で実践されているESD・探求型アクティブラーニングの先進的な取り組みについて、非常に有意義なお話を聴くことができました。色々考えさせられました。
ご多忙の中、また貴重な休みの日にご講演いただいたお二方に感謝申し上げます。
人手不足もあり、画面のコントロールや、オンラインの不具合があり、ご迷惑をおかけしましたことを、重ねてお詫びいたします。
ブログにつきましても、より簡潔な報告にすべきであるという内部意見もあり、そのようにしていくべきとも思いますが、今回はとりあえず、従来通り詳しいめに報告させていただきました。長文失礼しました。(文責:浮田)
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