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教育DXの一環としての、スパコンと線状降水帯のお話(その2)
2023年08月08日
・ここで注意しないといけないのは、方程式の解を得るためには正確な初期条件と境界条件を与える必要があり、特に計算領域の端が洋上にある場合は、必ずしも正確な洋上の風速・雲や水蒸気の量・温度や気圧が得られていないことです。また各格子点における風速を始めとするデータも観測点に抜けがあることです。また計算途中でも各種の誤差(方程式の非線形性に起因する誤差や、有効数字の丸め込み誤差など)が入り込むことがあるので、予測は完全に一つの解にはならないことです。台風の進路予測もTVで気象庁の予測だけでなく、他国のスパコンの予測も併せて表示することがあります。このようなデータを見ると驚くほどのばらつきがあることに気が付くことでしょう。
・線状降水帯の予測可能性については、京を用いた研究結果の一例を示します。予測結果は50回ほどの繰り返し予測のアンサンブル平均で評価するとそこそこの結果が得られることを示しています。このような計算を京や富岳のような共用スパコンで常時行うことが困難です。(富岳などのスパコンには登録機関があって、多くの研究者が計算内容と使用するスパコンの領域を申請して、許可を得る必要があります。
・気象庁では現在スパコン京の約1/3の性能を持つ専用機を有しており、本年5月には「線状降水帯の危険性を予測段階で発表できるようになった」と公表しました。7月初旬に九州・山口地方を襲った線状降水帯による災害や、その後で秋田県を中心に発生した線状降水帯の災害について、従来よりも詳細な予測を公表しました。しかしながら、前項で述べたような境界条件や初期条件の不十分さに起因する予測結果の誤差については、今後もさらなる検討が必要であると思われます。今後の予測精度の向上に期待するところです。
授業の最後に以下のようなQ&Aがありました。
Q: 量子コンピュータが話題になっていますが、今後スパコンはどうなるのでしょう?
A: スパコンを始め現在のデジタルコンピュータは、「0」「1」で表す情報を「ビット」と呼んで、それをレジスターに記憶することで計算を進めます。一方、量子コンピュータでは量子状態の重ね合わせ(量子波動関数)を用いて、「0」「1」と重ね合わされた確立に従ってランダムに選ばれた結果が一つ得られるような仕組みになっています。計算目的によっては従来のコンピュータよりも格段に計算能力が上がると言われています。量子コンピュータは開発途上であり、不確定ですがそれぞれの長所を生かした計算分野で使われていくと思われます。
Q: 富岳の後継機種はどうなるのでしょう?
A: 富岳は日本のスパコンリーディングマシーンで、より高度のスパコン技術を目指して次世代のスパコンの開発が進んでいると考えています。京は富岳で開発された技術は、例えば気象庁のスパコンなどに見られるように、大学や研究機関・企業の研究所でそれぞれの目的に会った高速大容量計算が可能なスパコンが設置されています。このように、最先端のスパコン技術は日本の国家基幹技術の一つとして、日本の科学技術を推進していくことと考えています。
(薄井 記)
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