石炭火力発電に関する研修会のまとめの続きです。
2018年01月06日
次の図は石炭火力とLNG火力のコストを詳しく比較したものである。kWhあたり石炭火力は12.9円、LNGは13.4円である。石炭は燃料費は安いが設備費は高い。LNGは設備費は安いが燃料費が高い。燃料は輸入によるので、燃料費は海外に流出する。
電源開発の石炭火力の発電効率は日本のトップランナーであり世界のトップランナーでもある。各国の事情によって、なお石炭火力の依存度を高める国もあるので、効率を高める技術的な貢献ができる余地もある。
ただ地球温暖化対策が重要性を増す中、ヨーロッパを中心に化石燃料産業に対する投資から撤退するダイベストメントの動きがおきつつあるなど、石炭火力に逆風があることも事実である。
石炭火力発電の技術開発の最近の状況を紹介しておくと、磯子火力発電所は、現在動いている最新鋭の石炭火力発電所である。排ガスのSOx、NOx煤塵については技術が確立されて、最新鋭の技術が適用されている。これからはCO2の削減が課題である。
現在蒸気温度を600℃以上にした超々臨界圧発電(USC)が採用され、更新前の方式に比較してkWh当たりのCO2 の排出量は83%に改善している。
さらに700℃に上げた次世代USC、ガス化複合発電IGCC、ガス化燃料電池複合発電IGFCが開発実験段階にある。
西沖の山火力発電所ではUSCとバイオマス混焼をCO2対策にする計画である。バイオマスとしては、木質チップや下水汚泥などを想定している。
大崎クールジェンでは石炭ガス化発電で、中国電力とJVでパイロットプラント実験をしていて、すでに発電もしている。また第2段階として、ガスタービンに入る前に、CO2を分離して、回収する実験も行っている。さらに第3段階としては水素を燃料電池に利用するIGFCも計画中である。
分離したCO2を地層に封じ込めるCCSについても、日豪共同プロジェクトが行われている。日本でもCO2貯留適地調査が行われ、2030年までに3カ所程度1億トン以上の貯留適地を剪定することを目指している。すでに苫小牧では年間10万トンの貯留が可能になっているそうである。
地下に貯留しても安定性が大丈夫なのかと思われるかも知れないが、不透水層の下の砂岩等の空隙に浸透させて、長年の間に石灰石になるのでさほど懸念することはないとのことである。
日本政府が国際的に約束したGHG削減目標は次図の通りであり、電源構成はそれぞれ、再エネ22~24%、原子力22~20%、LNG27%、石炭26%、石油3%程度となっている。石炭にも一定の枠が与えられており、また旧式の発電効率の悪いものを効率の高いものに変えていくことも重要な対策になる。
以上まとめとして、スライドが示されたが、そのまま質疑に入った。
Q:石炭火力に対する逆風が強いが。
A:エネルギーについては各国の事情が優先される。先進国でも日本より石炭火力の割合が高い国があり、平均の発電効率の悪い国も多い。なぜ日本の石炭火力がここまで悪者にされるか理解できない気持ちもある。
資源のない日本はエネルギーセキュリティの面で日本はきびしい。オイルショックの時を思い出してほしい。資源もあり陸でつながっているヨーロッパは各国間で電力の融通がきく。
LNGはクリーンなイメージだが、CO2排出源である点では石炭と変わりはない。2050年にCO2 80%削減となると、LNG火力でもCCSをやらなくてはならなくなる。
Q:CCSにおけるCO2の分離する技術はどうなっているか。
A:大崎クールジェンではシフト反応での分離設備でいよいよ実証試験にはいるところ。膜分離についても別の機関で研究されている。地層貯留場所までの輸送費も含め、お金をかければできるレベルまではきている。
Q:原発が止まっていても、電気が不足しているわけではない状況で、まだ発電所新設が必要か。必要としてもなぜ石炭火力なのか。CO2対策費用の根拠は。
A:電気はストックできないので余っているわけではない。変化需要に合わせて適切な電源を動かすのが基本。安価でCO2を排出しない原子力発電分を次に安価な石炭火力やLNGがカバーしている。こういった一日中一定出力で運転するのが得意な電源をベース電源というが、発電したりしなかったりする不安定な太陽光や風力発電ではカバーできない。さらに曇りの日の太陽光発電のカバーは火力発電がしなければならず、まだまだ火力発電は必要な状況といえる。したがって最新の火力発電に置き換えることで平均効率を向上させることが今できる最良の対策だと思う。いずれCCS技術などが進めばゼロエミッションも可能になろう。3つめの質問の、CO2対策費用としては、排出量に応じた排出権取引の購入費用を想定している。
Q:宇部の発電所計画の時に、いま言われた古い施設のリニューアルというかたちで、効率のよい新しい施設を建設するということが、ちゃんと担保できないということで、環境省は否定的な意見(2015.6)を示したと思うが、その辺の道筋を示せるようになっているか。
A:需要以上の電気は作れないので、需要のなかで最適な電源を選択していることになる。電源により急激な発電ができる水力などのピーク電源や一定量の発電が得意なベースロード電源など性格に応じて電源を選択されるとともにより効率の良い電源が選択される。これは効率の悪い電源が使われなくなるということ。ましてや需要が減っている現状では市場原理によって古い火力発電は廃止しなくも動かす機会は減っていく。業界全体のことを考えなければならないが、電源開発(株)の中においても古く効率の低い火力発電所に発電の指令が来なくなるだろうし、そうなれば経済的に維持できなくなるので施設をやめるということも考えなければならないとも思う。なお、計画を是認できないとする配慮書に対する環境大臣意見は、電気事業全体の枠組みが不在な状況で出されたものだと考えており、電気事業全体の枠組みが出来た現在では、その意味合いは変わっていると考えている。
AC:省エネ法では、火力発電を建設する場合は発電効率はいくらという指示がある。
省エネ法では、熱効率に関するベンチマーク指標が設定されており、石炭火力電源新設について、41%以上、LNG等含めた火力電源総体として44.3%以上が事業者に求められることになっている。さらに高度化法では電気小売業者に対して、非化石電源比率を44%以上にしなくてはならない。また、2030年時点における0.37kgCO2/kWhという目標は業界が約束している。これらの省令は宇部の発電所に係る環境省の意見の時に各省庁間で調整され、CO2排出量と各電源構成の両立を目指して2030年における石炭火力は26%といったエネルギーミックスがつくられていると理解している。
Q:今年の3月の環境新聞で石炭火力のいくつかの計画が断念されたという記事があったが、こちらの方では計画を進められるのか。
A:省エネ法では発電効率は後戻りできないので、技術力のない企業は対応できないし、需要が減っている中で経済性も両立する必要があり簡単には計画できないということだと思う。
Q:宇部の発電所計画では排出原単位は0.81kgCO2/kWhなのか。磯子と同様とすれば年間600万トンのCO2発生量になるが、それに近いのか。宇部の場合は現状600万トンくらいだから、倍増することになる。宇部地区にも株主企業の古い発電所があるが、それを含めて調整するということはできないのか。
A:発電する地域と消費する地域が違うので、CO2の排出量を特定の地域に限って述べるのは矛盾すると思う。日本、世界と、より広い範囲でバランスよく考えたいところ。
Q:日本の石炭火力発電効率が世界の中で一番高い理由は。また海外の発電所の効率を上げることで実質のCO2削減に寄与できるのではないか。
A:日本の技術力が高いということ。効率は上がるがコストが高い。インドネシアで200万kWを建設中である。中国も効率があがってきているが、これも日本の技術である。現実性は別として中国、印度、アジア諸国の石炭火力の効率を全て日本並みにすれば、現在の日本のCO2排出量全体に匹敵する削減になると試算した人もいる。
Q:発電効率の違いはそれぞれの国の石炭の質にもよるのではないか。
A:ポーランドやインドなどは褐炭と呼ばれる低品位炭の産地であり、こういった石炭では現在の火力では高効率化は難しい。しかしIGCCなど次世代の石炭火力ではむしろこういった褐炭の方が効率が上がる。
Q:技術開発による削減について排出権取引やJCMに結びつけられるのか。
A:われわれではわからない。国がやるべき課題だと思う。
AC:現在国はJCMに力を入れているようである。ドイツで行われたCOP23では、日本が現在17国と取組中だが、さらに増やす予定であるということだ。
Q:個人的には原子力より石炭火力の方がマシだと思っているが、もっと一般の人達も関心を持って行くべきではないかと思う。温暖化が大変だといわれながら、平気でクルマを乗り回しているし、プラスチックごみの多さを見ると、人間の傲慢さを感じてしまう。人類全体の危機であると思うので、価値観の見直しだとか、そんなことも考えなければと思う。宇部市は7年来リアウ州ブンカリス県と交流している。2015年11月はじめの新聞でインドネシアのカリマンタンやリアウ州などの泥炭湿地林から、同年10月までに、森林火災によるCO2 の放出量が日本の一年分の排出量に匹敵するという記事があった。
方法書に対する市長意見や知事意見にも、それに関する記述があったと思うが、経産省の最終意見では、そのような記述はなかったようだ。しかし環境省の方は色々関心をしめされると思うので、今回の計画でも事業者として、いくらか取り組んでいただくとありがたいと思う。
QC:地球温暖化の影響の大きさとか、市民や会社もさほど真剣にとらえていないのではないか。
Q:具体的に宇部の計画では、蒸気温度600℃のUSCの採用になるのか。
A、AC:タービンに入る蒸気温度が600℃以上、発電効率43%程度というのは現在最高レベルである。700℃というA-USCは高温に耐えるタービン用、ボイラー用の材料が必要となるが、前者は回転部、後者は溶接部の技術課題があり、10℃上げるにも何年もかけて実証試験をする必要があり、未確立の技術を宇部に採用できない。CCSも宇部の計画には間に合わない。
Q:最近企業の不祥事が多いが、発電効率についてはその点大丈夫か。
AC:省エネ法によって、毎年報告することが義務づけられている。
A:当然ながら、信頼感のあるように努めていきたい。コンプライアンス違反をする企業はやっていけなくなる。
Q:外国の人が、最新鋭の発電所で研修するようなことは行われているのか。
AC:すでに建設から50年くらい経っている設備だが、ずっと発電効率を維持している高砂火力発電所には、インド等から効率の維持という観点の研修を受け入れたり、技術指導に派遣されたりしている。もともと国策会社だったこともあり、海外への技術支援の努力もしている。
Q:再生エネルギーのコストや可能性についてはどうか。2030年22~24%は可能なのか。
A:今日は詳しい資料を用意していないが、kW/hあたりの発電コストは原子力発電や石炭火力が9円~11円くらいか。風力は20円、太陽光は28円あたりか。地熱は出力にもよるが25円~40円くらいだと思う。さらに地熱は国立公園法に抵触することが多く、思うように開発できない。再生可能エネルギーはまだまだコストが高い。また、風力や太陽光は不安定性なので、バックアップする火力発電所は発電しなくても一定数必要になる。太陽光は昼と夜の違いだけでなく、曇ると発電量が少なくなる、風力も一定の風速で安定しているといいが、風がなくても、強すぎても発電できないなど、火力発電のバックアップが必要となるのである。
Q:広島のNPOと組んで、カンボジアの支援をしている。カンボジアでは電気が不足し電気代が高いので、発展に限界がある。ジャトロファのバイオ燃料と泥炭を混ぜ合わせて燃料にして、小規模な火力発電所をつくりたい。日本の技術支援で貢献できたらありがたいと思う。
A:先で余裕ができれば、そういったことも考えていきたいと思う。
今回、石炭火力発電所について、ずいぶん理解を深めることができたと思います。ありがとうございました。 文責:MU
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