熊本大学外川健一先生による自動車リサイクルに関する研修会の概要をまとめました。
2018年01月04日
大変遅くなってしまいましたが、昨年11月30日に行われた外川先生の研修会の内容紹介です。
まず自動車リサイクル促進センターの「なぜ今自動車のリサイクルなのか」というビデオを、途中適宜解説を入れながら、見せていただいた。法の施行に合わせてつくられたものです。
我が国の自動車の保有台数は7500万台(世界の約1割)、廃車台数は年間500万台、中古車輸出が150万台、350万台が解体・リサイクルに回される。
解体に回る自動車の実効リサイクル率は90%で、残り10%はシュレッダーダストなどとして焼却処分や最終埋立処分に回されていた。処分費用の高騰のため、不適正処分や離島などでは廃棄車両の野積みなどが問題になっていた。
特に香川県の豊島における不適正処分は大きな社会問題になった。最終処分量を減らしリサイクル率を高めるために2002年自動車リサイクル法が成立し、2005年1月に施行された。これによりメーカーはシュレッダーダスト、フロンガス類、エアバッグ類の再資源化・適正処理をすることが義務づけられ、販売業者、解体破砕業者、保有者の役割分担も定められた。
自動車のリサイクル料金は新車購入時に支払うことになっているが、それを意識している人はあまりいない。
だいたい、100万円の車で1~1.1万円位だが、その半分強はASRの処理費である。
情報管理費用は、自動車の現在はどういう段階にあるかということが記録されている。番号を入れれば知ることができる。不法投棄も防ぐことができる。
資金管理費用はプールされている資金を管理するための費用である。新車の場合は290円、中古車の場合は450円、自動車の寿命は15~17年。資金有効活用のため、法律制定時1億円の国債を買う資金にもなった。特例債も買ったので、資金が貯まる。あるいはリサイクル料金が安くなれば、余剰金も出る。これらの資金を管理するための費用である。
海外へ中古車を輸出する場合は、リサイクル料金は最終所有車に払い戻される。たいていの場合、海外輸出をしていた中古車販売業者が最終所有者となり、かなり潤ったのではないかと思う。10万円の中古車なら、1万円のリサイクル料金が戻ったら大きい。
何の数字かわかるかというスライドですが、上に述べたことと関連して、大阪で一番大きな解体・破砕業者が自分でかぶったリサイクル料金の額である。解体するのに廃車を確保するため、法施行後の2006年には鉄スクラップ価格が高騰していたので、多くの中古車をオークション等でリサイクル料金を払って購入したことを示している。推移を示している。
解体・リサイクルのプロセスは、事前処理作業として、①廃油等の液抜き、②エアバッグの回収(爆発させ鉄粉等回収)、③再利用できるパーツの取り外し(エンジン、バッテリー、バンパー、足回り、タイヤ、ミッションなど)、次に解体作業が行われる。大手では重機で解体し、プレス機も持っている。全国約4900業者のうち1割程度、手作業の零細業者が多い。
プレスされてシュレッダー業者に運ばれた廃車殻はシュレッダーで粉砕され、鉄、アルミ・銅が回収される。法律制定当時、自動車には鉄が70%くらい使われていて、電気炉製鋼業者の良質な鉄くず原料として利用される。最近はアルミや銅の非鉄金属の回収も業者にとって重要になっている。重機リブラによる解体の場合は、解体業者の段階で、モーター等の銅線を回収している。またシュレッダー業者でも、最近はより高度な分離装置が使われるようになっている。
最終的に出てくるのがシュレッダーダストで、プラスチック、ゴム、タイヤくずなどである。これはエネルギー利用や最終処分されるが、小名浜精錬は首都圏のASRの受け皿になっている。昔のASRはかなりの銅やアルミも含まれていたということである。今でも昔に比べてうんと少ないものの、銅やアルミなどもいくらか残っている。ASRの質的変動に対応するには、やや旧式の銅の精錬炉で却って処理に向いてとのことである。これに次いで、共英製鋼のようなガス化溶融炉でも、それに次いで多くのASR処理がなされている。
先に示した中古車のリサイクル料金の負担額であるが、2008年の低下はこの年の終わりにリーマンショックがあり、メルケル首相のドイツが次世代自動車、排ガス対策車のエコカー買い換えにエコカー減税や補助金を出した。スクラップインセンティブの政策を実施し、日本も同様にエコカー補助金として、エコカーを買って、国内でスクラップするときに補助金を出すようになった。ディーラーは新車を買わせ、中古車は解体業者に出した方がいいということになり、解体業者も無理をして中古車を買わなくて済むようになった。この補助金制度が2010年になくなると、以前の状態に戻り、さらに最近の減少は、もうそういうことはやらなくないという方針になったことに対応している。それで、最近は華僑系やパキスタン系などのバイヤーがその役割を果たしているとのことである。
この色分けした世界地図は、右ハンドル国と、左ハンドル国の区分を示しており、青は右ハンドル国、赤は左ハンドル国。インド、パキスタン、東アフリカ、インドネシアなど右ハンドル国は意外に将来性がある。
人口密度の小さいオーストラリアと人口密度のかなり大きいインドや日本の離島では、ずいぶん廃車の扱い方も異なってくる。オーストラリアでは、砂漠の中に少々車が散らばっていても気にならないとか、インドでも車が増えていけばリサイクルが問題になるだろうとか、地理学の研究者としては色々考えることがある。このあたりについては、最近、浅妻・福田・岡本先生との共著で、「自動車リユースとグローバル市場~中古車・中古部品の国際流通~」成山堂書店刊 を出している。
質疑:
Q:電気自動車が普及したときのリサイクルはどうなるんだろうか。
A:モーターと電池が重要になり、またパーツの数は極端に減る。モジュールごとの交換で済むことになり、ビジネスの形態が大きく変わる。ガソリン自動車の場合、お金になるのはエンジン、排ガス用触媒(白金などのレアメタル)など、電気自動車の場合は、モーターと電池になる。
家電量販店が電気自動車を売る時代になるカモ知れない。ユーザーもモジュールを交換してモデルを組み替えていくというような姿になり、業界も大きく変貌するだろう。
しかしそうなるためには、グローバル化や充電装置の問題や、走行性能のことなどを考えると、ガソリン車が圧倒的に有利なので、電気自動車が普及するのにはかなり時間がかかるのではないかと思う。
AIも発展するし、カーシェアリングが増えてくるだろうし、若者のクルマ離れも増えてきている。色んな意味で変わってくる。パソコンOSのようにバージョンが変わって行き、買い換え需要が大きくなるかも知れない。
Q:グローバル化を考えれば、ガソリン自動車の優位性は変わらないかも知れないが、そうかも知れないが、温暖化問題もあるし、太陽光発電などで自家充電ができるようになれば、普及が進むのではないか。町工場でも
A:今は安全性をアピールして、国交省が連携する形で、自動車メーカーがあるわけだが、こっれからは、少し違った形になるのではないか。大手の山田電機とかヨドバシカメラなどが、
Q:電気自動車になればリサイクルが全般にしやすくなるのだろうか。
A:パーツを取り外して、それをメーカーか指定工場へ戻して、やりかえるというような形になるのではないか。モジュール、部品、パーツをメーカーが供給して補修していくシステムに家電量販店が絡んでくるとか。
電気自動車の場合は廃棄物が出にくくなるのではないか。電気自動車の場合、廃棄物としてお金になるものはモーターと電池ぐらいしかない。ハイブリッド車のモーターや電池のリユースは今でも解体事業者の大きなビジネスになっている。トヨタはこれらの回収システムを作っているが、解体業者は、海外や国内でも中古の電池やモーターを流通させる方が、儲かるので、そちらに回すことになる。
Q:自動車リサイクルはリサイクル料金は先払い、家電製品リサイクルは後払いであるが、先払いの場合は、色々ややこしい状況があるというお話だったが、後払いの方が合理的なのではないか。
A:一番大きな問題は不法投棄の問題。離島などは家電製品の不法投棄もある。指定引き取り場所まで持って行って、リサイクル料金を払わなくてはならないので、鉄スクラップ価格の変動にもよるが、離島の場合は自助努力で、本土の指定引き取り場所まで持ち込む必要がある。先払いの場合はメーカーがリスクヘッジのために、どうしてもリサイクル料金を高めに設定するので、後に剰余金が出てくることになる。
Q:はじめに払っておく方が、いずれにしてもリサイクルを進めるためには望ましいと言うことになるのではないか。不法投棄や、正直者がバカをみるということをなくしたいと言われたが、不法投棄を重視したのか。
A:オランダは当時デポジット制度で、他車充当性リサイクル料金を毎年変える。今年の廃車に対しては今年の新車購入者に。リサイクル料金相場を負担させる仕組みである。自分は当時前払い制に賛成はしたが、このやり方も面白いとと思っていた。
不法投棄を一番問題にしていた。誰がやっているかを地元の住民や自治体は知っていても怖いので黙認する形が多かった。そういう構造をあらため、業界の社会的地位を上げ、報われるべき人にお金が行くようにしたかった。
だから、自動車リサイクル法がASRとフロンガスとエアバッグだけを対象にするというのは不十分と思った。審議会の参考人でも、リサイクル料金といったら、国民はASRだけでなく、廃油や廃液、バッテリーその他色々のものまできちんとリサイクルされていると思いますよ、といった意見を述べた。タカダのエアバッグのリコールがあったが、法律上はエアバッグは解体業者が取り外して、メーカーが指定した回収業者に持ち込むことになっている。実際は例外措置として解体の段階で爆発させて、鉄粉を回収することが行われている。シュレッダーでエアバッグが爆発して機械が故障したり、手選別ラインで爆発して負傷した事故があったためである。しかし今はエアバッグは運転席、助手席だけでなく、シートベルトにもついていたり、全部で6,7,8箇所ついている。BMWのある車種では50何個ついているらしい。そんなものを一々外していたら、とても1300円のリサイクル料金では間に合わない。
エアバッグの中古品としての流通はできないことになっているが、ネットオークションでも結構売られているようだ。整備業者が取り外して再利用に回すことは国交省も認めている。
C:自動車リサイクルも詳しくお話を聞くと、奥が深く、なかなか短時間では理解できないところがある。
A:90分授業16回分くらいの内容なので、1回分では限界がある。エアバッグだけでも、開発の経緯から含めて90分話せる。そのために、「資源政策と環境政策から日本の自動車リサイクル政策を事例に~」原書房刊 を書いた。授業のテキストや、本音で語るので解体リサイクル業者さんが、研修会用にかなり買っていただいただき、第一刷は完売したが、第二刷はどうかなというところ。
最後、電気自動車のリサイクルはどうなるのかについては、正確な予測はできないが、ビジネスモデルは変わることは言えると思う。
久しぶりに深い学習をする機会になりました。できるだけ正確を期したつもりですが、
不備があれば訂正させていただきます。お忙しい中、宇部まで足を運んでいただいてありがとうございました。 (文責:浮田)
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