アクトビレッジおので「環境学習指導者研修会」が開催されました。
2016年08月19日
平成28年8月13日(土)13:00~16:30に環境省協働取組加速化事業の一環として、「環境学習指導者研修会」が開催されました。参加者は20名でした。
当日のプログラムは以下のとおりです。
講師: 浮田 正夫 (うべ環境コミュニティー 理事長 ・ 山口大学名誉教授)
講演題目: 「里山の保全と持続可能性」
講師: 津島 榮 (小野湖の水を守る会)
講演題目: 「ESD (持続可能な開発のための教育) について」
コメンテーター: 大濱 進治 (宇部工業高校 教諭)
「宇部工業高校における、持続可能な社会の構築に貢献できる資質・能力の育成に
向けたプロジェクトの実施状況について」
「里山の保全と持続可能性」
☆ 講演の冒頭、「物質、エネルギー、情報」の3要素における持続可能性について、省エネルギー、再生可能エネルギーの課題を解決しながら、環境にインパクトを与える要素の抑制を行うことが大切であり、同時に完全リサイクルによる循環社会の構築が大切であることを強調された。また、情報要素は、生物が多様な自然共生環境と接して情報を交換することを意味しており、この共生環境における接触が多様なほど系としての安定性が増して、種の保存に有効であることを強調された。
☆ リサイクルに関しては、浮田作詞作曲の「うんこはエライ」を紹介して、子供たちに対する環境学習の現場の紹介があった。他に「しんぼう省エネの歌」、「もり川うみと里山と」の歌も紹介し、環境持続性の教育についても話が広がった。
☆ おの湖の近辺の環境保全については、ゴルフ場開発問題の経緯、安定型産業廃棄物最終処分場の建設問題の経緯にふれて、現状に至るまでの問題点が指摘された。
☆ 山口県の森林の生産機能と公益機能についてのデータが示され、公益的機能は生産額の200倍の額を有しており、公益性を重視するなら林業に対する支援をもっと充実させるべきであるとの意見が述べられた。インドネシアなどで行われているパームやアカシアの大規模なプランテーションは、森林資源の多様性を保つ観点からは非常に問題が大きく、開発による水位の低下による泥炭層の自然発火と大規模な森林火災も炭酸ガスの大量放出において深刻な問題を引き起こしていることが報告された。
☆ 食料輸入に伴うバーチャルウォーター(農業生産に必要な水を仮想的に輸入しているとする概念)は約800億トンに達しており、日本の国内水使用量に匹敵することが示された。私たちは、輸入する食料も多量の水を使用していることを意識しなければならない。
☆ 最後に、イスラム教、キリスト教、仏教の環境倫理にも触れて、私たちは今こそ①モノの豊かさと心の豊かさのバランスうぇおとるべきであること、②ヒトと自然の間の規範、環境倫理を身に付けるべきであること、③宗教心、自然に対する謙虚さを取り戻すべきであること、④世界の経済の仕組みを変えられないのか、⑤圧倒的な洗脳情報の洪水にさらされている子供たちに、①~④のことをどう伝えるのかなどが、纏めのコメントとして述べられた。
(質疑応答)
Q.講話の中ででた「ピート(泥炭)」はどのようにしてできているのか?
A.熱帯地方における熱帯雨林では、水の中では空気に触れないため、腐りにくい。この条件で木の分解したものが堆積する。そこで、地下水が下がり、空気に触れることによって、酸化する。これによりピートができる。
C1.補足として、植物が地下に堆積し、長期にわたって高温・高圧の状況にあると石炭となる。炭化(石炭化度ともいう)の度合いによって、泥炭(ピート)、褐炭、瀝青炭、無煙炭など色々な石炭の種類に分かれる。炭化が進んでいないものは表面官能基が多く酸化しやすい。そのため空気に触れると自然発火しやすい。石炭の運搬船の船倉内で火災が発生すると大変なことになる。スマトラなどでは乾季には水位が下がっては、一度火災が発生すると消せないという問題もある。
Q.里山の保全について。日本の山林は従来のナラから、スギ・ヒノキへ置き換えられていった。特に山口県でも無計画にスギ・ヒノキを植林したため、間伐しても木の搬出ができず、整備されずに暗い森となり、下草も生え放題となっている。こうした場所には昆虫も姿を消しつつある。きちんと整備をするべきだと思うが、林業が儲かる産業に成長しない限り、担い手は現れない。
A.防府市のバイオマス発電で間伐材を約4万トン、中国電力の新小野田発電所でも石炭とバイオマスの混焼事業も行われている。間伐材の利活用については、これからだと考える。
Q.現在の環境問題に関する認識については、概ねの人が危機感を持っていると感じているが、具体的な行動となると良い案が思い浮かばない。
A.価値観を変えていく必要がある。特に幼少期からの教育が大事。一朝一夕で目先の問題に対応するだけでなく、国家100年の計のように、先を見据えた教育をしていくことが必要と思う。
C1.大学の農学部卒業後の進路は大抵、農芸化学分野といういわゆるケミカルの仕事で、一部の企業分野にしか流れていない。里山保全の礎となる農業や、漁業、林業に従事する者は生計が立てられないこともあって、ほとんどいない。レンジャーなどの仕事もあるが、働く場所(博物館等)が少なく、就職までには至らない。この状況を改善する必要がある。
C2.NHK―BSの日本の里山という番組などを見ると、とても手入れが行き届き、美しい景色を維持しているところがあって、とても感動する。しかしながら、これらは個人の努力に終わっていることが残念でならない。思いつきで行動するのではなく、長期的視野に立って、日本全体で考えながら行動するべきだと思う。
☆ 引き続き津島氏よりESDについての考え方が講演され、冒頭に次の点を強調した。「地球環境の危機的な状況の下、私たちの生活は持続不可能なものになりつつある。今こそ、私たちは目先の利益や現在の生活の維持にとらわれた考え方ではなく、環境との関わりについて理解を深め、豊かな自然の価値についての認識を高めて、環境を大切にして行こうとする心を持つことが大切である。また、環境に配慮した生活や責任ある行動を起こしていくことが求められている。」
☆ ESDで育みたい力(能力、態度)として次の7項目を挙げた。
1. 他社の意見、情報をよく検討・理解して発展的に解決策を考える。(批判的に考える力)
2. 見通しや目的意識をもって計画を立てる。無計画に物事を進めない。(未来像を予測して計画を立てる力)
3. 役に立たないものは、直ちに不要と考えない。断片的に物事を考えない。(多面的、総合的な考える力)
4. 自分の考えをまとめて簡潔に伝える。他社の意見に自分の意見を加えてより良い意見に仕上げる。(コミュニケーション能力)
5. 相手の立場を考えて行動する。みんなの良いところを集めて大きな力とする。(他社と協力する態度)
6. 自分が様々な物事とつながって生きていることを認識する。いろいろなもののお陰で自分がいることを実感する。(つながりを尊重する態度)
7. 自分の言ったことに責任を持ち、約束を守る。進んで他者のために行動する。(進んで参加する態度)
☆ ESD学習方法について、次のステップを踏むことを今後の行動指針とする決意が述べられた。
a.「つかむ」 本物と出会い、体験し、多様な人と交流する中で問題を発見する。
b.「調べる」 多様な情報の入手、持続性の調査研究を通じて、関連知識を獲得する。
c. 「まとめる」 コミュニケーションを重視したグループ討議を行うことにより、持続を可能とする取り組みを策定する。
d. 「発信・行動する」(進んで参加する) 持続を可能にする取り組みを実施する。多様な人々との意見交換を通じて、環境保全活動への参加を促す。
e. 「評価・見直し」学習方法は有効であったか、解決策は持続性に有効であったか、の観点から、評価・見直しを行う。
☆ 宇部工業高校の大濱進治教諭より、「宇部工業高校における、持続可能な社会の構築に貢献できる資質・能力の育成に向けたプロジェクトの実施状況」について、コメントがあった。
(質疑応答)
Q.これまでの宇部工業高等学校の取組で印象に残ったことは何か?
A1.環境問題について多様な取組があるが、伝えていくことが大事だと思う。ESDは、自分たちが伝えていくべきだと思っている。具体的には、企業の方々との議論をすることもあったので、こうした機会を活かしていきたいと思う。
A2.地域の子どもたちとの交流事業としてスライムづくりを行っている。こうした学校外で触れ合う機会があることで、コミュニケーション能力が培われて良かったと感じている。
A3.宇部市の95周年事業の一環で、宇部のことについて市民の方々、企業の方々、地域に住んでいる方々など多様な立場の人たちと議論を交わす機会があった。こうした機会はとても貴重な経験になった。
C1.先の講演で出たうんこの話は、「循環」を考えるとても良い教材だと思う。昔畑にあった肥溜めを例にとると循環の話はとても良くわかる。うんこの話をきっかけとした循環のテーマ設定は良い考えだと思う。
また、2番目の講演で、日本の労働力人口が減少し、新たな労働力を受け入れる時代に入るとの発言があったが、オーストラリア・ニュージーランドなど日本とは人口・国土などの規模が違う国でも経済が成り立っているケースもある。日本の現在のライフスタイルを維持するためには、新たな労働力が必要かもしれないが、ライフスタイル自体を変革すれば良いのではないか。
C2.多くの人にとって、便利になった生活を変革すること、特に後退するのは、受け入れがたいと思う。そういった意味でもライフスタイルの変革は難しい。
C3.そこで、循環をキーワードにした幼少期からの教育により、現在の価値観を変えていくことを目指すと良い。
Q.コメンテータのお話にあったアクティブラーニングは既に実践しているのか?
A.1学期にやる予定だったが、自身の怪我もあり2学期から実施する予定。そもそもアクティブラーニング自体は、文科省の調査官と調整して実施を決めている。このなかで1学期に1回は観点別の評価を行うというリクエストがあり、私自身もそうした想いに同意する部分があったので実施する。しかし、実際に座学でこうした評価を実施するのは、授業時間に制約のある座学では極めて難しい。また、どのような力がついたかという評価を、どこを見て判断するのか、評価を受ける側にも意識をさせる必要があると考えていることから、多くの評価を1つの授業で判断することはできない。
こうした理由からアクティブラーニングはこうした観点別の評価を行うにあたり、良い教材になると考えているため、実施する。この授業は外部にも公開するので、興味のある方は是非見に来てほしい。
C1.大学でも教授が学生からの評価を受けるという制度もできたが、うまく機能させるには相当の努力が必要だと感じている。
C2.工業高校では、これまで大学や高専といった上級教育機関との連携は図ってきているが、アクティブラーニングは、下部教育機関との連携を目指している。これにより、いままでとは異なる側面の問題があぶりだされ、学び直すきっかけになるのではないかと思っている。これまでの視点を変えて、新たな問題解決の方法につながるかもしれないという期待を持ってやっていこうと思う。
Q.ESDは環境教育だけでなく、もっと幅広い議論だという話が講演の中で出た。また、宇部工業高校では、小野地区の環境保全活動に参加し、ESDの力を育むことを目指しているのと事。そこで質問だが、実際に活動に参加して、何を感じたか?
A1.平成28年度から参加させてもらっているが、タケノコ、オリーブなど全てが学生にとっては初めてのこと。特にタケノコなどは、そこらに生えているものが、調理して食べられるなんて思ったこともない。街中では絶対にないことがあること、その経験こそが彼らにとって大事だと思う。
(文責 薄井)
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