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HUさんの環境・エネルギーの視点(その4)- 人工光合成の研究最先端
2016年05月09日
新エネルギーの研究開発には植物など自然の仕組みをうまく利用できる(バイオミメティック)技術の研究開発が大事であることを強調されています。今回は、人工光合成の研究開発の最先端の情報をまとめてみたいと思います。
植物細胞の中の葉緑体
1804年に、スイスのニコラス・テオドール・ド・ソシュールさんは、ソラマメを土ではなく小石の上で育てる実験を行いました。するとソラマメは普通に育ったため、植物は空気から炭素を得ていることが分かったのです。また、植物の枝を、二酸化炭素を吸収する石灰と同じガラス容器に封入して育てたところ葉がすべて落ちてしまったことから、植物は二酸化炭素が無いと生きていけないことを発見しました。さらに、有機物と酸素の総重量が、植物が取り込んだ二酸化炭素の重量よりも大きいことも発見して、光合成には水が必要であるとし、以下の式を導きました。(当時はまだ化学式が使われていなかったため言葉の式となっています)
二酸化炭素 + 水 → 植物の成長 + 酸素
これが、最初の光合成の発見だと言われています。
また、1842年には、ドイツの物理学者ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤーさんによって、光合成は「光エネルギーを化学エネルギーに変換している」ことがつきとめられました。更に、1862年、ドイツの植物生理学者ユリウス・フォン・ザックスさんは、葉緑体を顕微鏡で見たときに現れる白い粒は取り込まれた二酸化炭素に関係があるのではないかと考えました。彼は当時既に知られていたヨウ素デンプン反応を参考に、日光に十分当てた葉にヨウ素液をつけてみました。すると葉は紫色に変色しました。この結果から彼は「植物は日光が当たると二酸化炭素を取り込んで葉緑体の中でデンプンを作り、それを使って生きている」ことを発見したのです。
現在では、光合成は光エネルギーを化学エネルギーに変換する光化学反応と化学エネルギーから糖を合成するカルビン回路より成り立っていることが知られています。核反応の過程は専門的知識がないと理解することが難しいので、ここではその反応過程の概略図のみを引用するにとどめます。
上記の反応過程は複雑ですが、人口光合成は自然界の光合成反応過程を模倣することによって、効率よく水と炭酸ガスから酸素と糖を作り出せるはずです。
水に光を当てるだけでは、水の分解は起こりません。水を分解するには、この反応を手助けする触媒の働きが必要です。光合成では、「光化学系II(PSII)」というタンパク質複合体が触媒の役割をしています。葉緑体の中には、チラコイドという平たい袋状の構造物があり、PSIIはチラコイドの膜に埋め込まれた状態で存在します。
PSIIには、水分子が入り込む「通路」と、その通路の先に、実際に水を分解する「触媒中心」と呼ばれる部分があります。通路に水分子が入り込むと、PSIIは、光のエネルギーを利用して、触媒中心を含む自分自身の立体構造を変化させ、水を分解します。そして反応を終えたあとは、再びもとの立体構造に戻ります。このときのPSIIの触媒中心の立体構造の変化を詳しく知ることができれば、その構造を模倣して、PSIIの触媒作用をもつ化合物を人工的につくりだすことができるはずです。
葉緑素の中に含まれる光合成触媒(「光化学系II(PSII)」というタンパク質複合体)の構造を明らかにすることが、人工光合成の実用化へのブレークスルーであると考えられており、次回はどのようにして、このたんぱく質の構造を明らかにしようとする研究が行われているのかについて説明します。
このブログで引用した図は全て、大型放射光施設SPring-8の下記URLからのものです。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_59
(人工光合成は、光合成反応の触媒を見つける(あるいは合成する)ことがキーポイントとなっています。酸化チタンに代表される光化学反応の触媒を光合成反応に適用できるように展開していく方向も大きい研究の動向になっています。ノーベル賞受賞者である根岸栄一先生も文部科学省の人工光合成プロジェクトの推進にかかわっておられます。また、豊田中央研究所やパナソニック、東芝も独自に光合成反応の触媒を開発しています。これらの研究は、バイオミメティックというよりも、それぞれの研究者の触媒開発のセンスが生かされているように感じます。次回は、先に述べたようにたんぱく質の構造解析を基にした人工光合成研究の動向について述べることとします。) HU
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