2月18日の環境サロン「COP21後の原子力発電の位置づけについて」の概要報告です。
2016年03月10日
遅くなってしまいましたが、先月2月18日に行われた、平成27年度第18回環境サロンの概要報告です。
講師の浅田さんは、宇部興産に32年、山口県産業技術センター所長として4年、山口県外郭団体のやまぐち産業振興財団に4年、その後山口大学に4年、退任後は引き続き非常勤講師を務められていて、産官学にわたる多彩な経歴を持たれています。
お願いした演題は「COP21後の原子力発電の位置づけについて」というホットな話題ですが、こころよく引き受けていただきました。
以下要旨です。
昨年パリで開かれたCOP21では、各国に目標達成の義務づけることまでは至らなかったが、削減目標の達成状況の報告は義務づけられた。日本は2030年の目標として2013年度比26%減の目標を表明した。これを果たすための具体的な方法として、原子力発電の位置づけ、石炭火力の規制のあり方、再生可能エネルギーの普及など、目標実現のロードマップを描くことが重要になっている。さらに途上国への技術援助による二国間援助によるCO2削減や水素エネルギー、蓄電池などの技術革新も求められるところである。
すでに経産省はCOP21に先だって、昨年4月に電源のベストミックス案として、2030年において、原子力20-22%、石炭火力26%、水力・再生可能エネ22-24%などとした目標を示している。
また当然のことながら化石燃料、とくに石炭火力のCO2 排出係数は高く、再生可能エネルギーや原子力は低い。
さらに電力のコストは、右上の図に示すように、kWhあたり、原子力10.2 円、石炭は12.9 円と低く、再生可能エネルギーは水力の11 円を除いて高くつき、このような経済性の観点も重要である。
この2月9日に、環境省は経産省と協議して、石炭火力の新設について条件付きで容認する姿勢をしめした。
なお、燃料の重さの比較をすると、原子力5kgに相当する石炭は1.2万トン、石油は1.5万トンである。
このような背景を考えると、現実的には、原子力発電をなしで目標を達成できるのかというのは当然の疑問であるといえる。
先ほど示した、原子力発電の20-22%はそれらを考慮したものであると説明された。
原子力の比率を26%を15%にしたり、0%にすると、経済的損失が大きいという試算例を紹介された。
原子力発電の是非については、一般的には反対派が多いようであるが、白か黒と言うことではなく、おたがいに冷静な議論が、必要であると考える。
演者は会社でも、ホットアトムやアイソトープ利用の研究をしていたので、島根原発が建設される時期に島根県に移籍しかけたこともあり、原子力利用には関心を持ってきた。
大学院の講義で、授業の始めに2030年における原発依存度について、2012年度と2013年度にアンケートした結果では、依存度0%が17→26%と増え、15%を選んだ人は37%→29%、依存度20-25%を選んだ人は30%→29%であった。
基礎知識として、放射線のなかでは、粒子線であるアルファ線とベータ線は透過力は弱いが、ガンマ線は透過力が強い。中性子線は水で遮蔽できる。
放射能の単位はベクレルであり、放射線の単位はシーベルトが一般に用いられている。ベクレルからシーベルトへの換算はベクレルに実効線量係数を乗じてシーベルトに換算される。
たとえば131I を1万Bq/kg 含む野菜を100g 摂取すると、実効線量係数 2.2×10-8 を乗じて、22 μSV となる。
内部被ばくもあることは重要である。距離が小さいので、影響は大きい。外部被ばくの場合は距離の自乗に反比例するということも頭に置いておかなくてはならない。また当然、遮蔽効果や、さらされる時間も重要である。
さらに、われわれは1.4 mSV/年(世界平均では2.4) の自然被ばくも受けている。
自然被ばくのほかに、医療被ばくもある。胸部X線撮影は1 回あたり、0.1~0.3 mSVである。白血病やガン発生確率に影響がある線量は100mSV となっているが、これは広島原爆の影響調査から得られた値であるとのことである。なおイランのラムサールでは260 mSV というような地域もある。
日本の基準は福島原発事故を受けて、一般食品は100 Bq/kg と強化され、EU の指標値1000 Bq/kg と比較して、厳しくなっている。自然放射能とはちがい、原子炉で生成した放射能であるため、このように厳しい値になっているとも言える。
ただ、チェルノブイリの場合も厳しくはしたが、日本ほどではない。
次に、福島原発事故のことについて説明があった。事故の原因については、徐々にマスコミなどでも明らかにされてきているので、紹介をスキップすることにし、右下の図は朝日新聞の記事の紹介として示された放射能の放出量であり、チェルノブィリ事故の方が福島より放出量が多いとコメントされた。
その後、原子力発電の仕組みやウラン燃料のつくりかた、原子炉の構造、使用済み核燃料など、基礎的な知識についても体系的に話していただき、福島第一原発の事故時の放射性核種の放出状況についても詳しく解説されましたがが、これも紙面の都合で紹介をはしょらせていただくことにする。後日動画が上げられるようにしたいと思います。
ただ、ウランの核分裂反応で、色々な分裂の仕方をするために137Cs、131Iや、133Xeなどが生成すること、先に述べられたウラン5kgが石炭1.2万トンに相当することの理由が左上のスライドで説明されている。
最後に、総合資源エネルギー調査会の資料で、色々な電源構成によって、電気代がどの程度になるのか、試算が示され、3の選択肢なら、電気代は16600円~19200円、原発0%の選択肢1なら17600円~23100円になるとしている。
三朝温泉の水はラジウム、ラドンなど3000Bq/l 含有してるが、健康のために温泉に入り、お湯を飲む人もいる。また、3枚目の写真に示されていたように、炭酸ガスの問題、エネルギー安全保障の問題、経済性の問題を全体的に考えて、原発は必要であるというお考えであり、また技術革新に期待するところもあるとされました。
質疑では、
○トリチウムは要注意だと思うが、あまり問題にされていないが、どうか。
→汚染水からトリチウムはとれないようだ。半減期は13年で、水と一緒に挙動するから注意する必要があると思われる。
○プルサーマルのある原発からのトリチウムの排出量が大きいが何故か。
→よくわからない。
○原子炉の装置の脆性破壊の問題はどうなのか。機械だから寿命があるはず。メンテナンスもむずかしいものだから、どうするのだろう。
→専門でないのでわからないが、大洗の原子炉は50年近く動いている。原潜はもっと長く動いている。
○将来性があるかどうかが問題だと思う。経済がこれからも右肩上がりにはいかない。そろそろ価値観を変えなければならないのでは。
→現実的にはなかなかむずかしい。
○新エネルギーの開発も集中すれば、進展する可能性もある。CO2 の貯蔵やCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)、たとえば人工光合成の技術開発が重要だと思う。
→おっしゃるとおりだと思うが、経済性がなかなか伴わないのがむずかしい。原発を利用しながら、徐々にシフトして行かなくてはならないと思う。
○原発に投入してきたお金を投入すれば、新エネルギーーの開発も進む。先ほどの電気代の差ぐらいなら、受任するという人も多いのではないか。
→韓国は日本のように手厚い補償対策もないので、原発依存立が高く、1/3の電気代で、産業の国際競争力が違ってきている。
○原発の熱効率は30%で、低すぎるのではないか。もっとバイナリー発電なども導入して高めるべきではないか。
→安全性の絡みもあるのではないか。
○核廃棄物の行く先がないのが問題ではないか。また、内部被ばくが問題だと思う。ベクレルからシーベルトに換算する係数の科学性はどうなのか。
○われわれの関心は「いのち」に与える影響である。心配はなくしたい。エネルギーやコストは後の問題だ。環境はお金で買えない。
→そうかもしれないが、心配されるレベルが、厳しすぎるのではないかと思う。
PET検査では一回の内部被ばくで数mSVと言うケースもある。
電気がない生活はできないだろう。
以下感想です。
反対派が多いが、容認派の意見をきっちり聴くことも大事だと思う。その意味では今回のサロンは、体系だった、まとまったお話を聴け、また、有意義な議論もでき、良かったと思う。個人的には、人類の末法の世の中にある気がしていて、価値観を見直すべき時代ではないかと思う。
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