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第15回環境サロン「マレーシアの青年海外協力隊を経験して~森林保護のとりくみ」木下愛さんの概要です。

2016年01月17日

 木下愛さんは2008年に日本福祉大学を卒業後、1年間同大学研究生を経て2010年から2012年の2年間JICA青年海外協力隊でマレーシアのサバ州に派遣され、帰国後、2015年から現在の山口県JICAデスクとして活躍されています。

今回のサロンはJICA出前講座としてお願いし、また宇部環境国際協力協会からもお手伝いいただいた。

木下さんは、ご両親の影響で小さいときから、世界の人たちに接することが多く、環境問題やマイノリティーの問題にも関心を持たれたようです。小学校6年生の時にはバングラデシュに行かれたこともあります。
 大学では福祉の勉強をされましたが、ひとが幸せに暮らすということに一番の関心があり、今の社会がそれぞれの専門分野に分けられて、みんなつながっているのに、見方が狭くなりがちだ。もう少し広く考えたいという意識を持っておられたようです。
 世界には、いろいろ多様な人達がいて、知ろうとすればつながることができると思ったとのこと。

 JICA国際協力機構はODAの二国間援助を担当する実施機関である。有償資金協力、無償資金協力、技術協力、市民参加協力、国際緊急援助の事業部門があり、世界は色々な問題があるが、よりよい世界を目標にして活動が行われている。
 海外ボランティアは技術協力事業だが、自分が経験した青年海外協力隊(20~39歳)とシニア海外ボランティア(40~69歳)は技術協力、この出前講座は市民参加協力の事業である。

 マレーシアは、人口は日本の22%、面積は90%、宗教はイスラム61%、仏教20%、キリスト教9%、ヒンドゥ6%その他で、80くらいの民族、200程度の言語がある多民族国家である。
 赴任地は、サバ州にあるクロッカー山脈公園の事務所で、コタキナバル空港から3時間バスに揺られてやっと着く。テーマは、公園内だがバンで1,2時間行かなくてはならない二つの先住民族の村を対象にした「村落開発」。マレーシアでは通常このような公園内では人も住めないし、小石も持って帰れないらしいが、たまたま立ち退きを免れた村らしい。

彼らの生活を見てみると、もともと森林に依存した生活をしていて、焼畑もあるものの共生的な暮らしをしている。経済的には貧しいとされるが、ある意味豊かな生活をしているといえる。

 むしろ近年の、油ヤシなどの商業作物のプランテーションによる開発が問題とのこと。換金作物が多くなり、自給作物は減り、食料の価格が上がったり、一時的に経済が豊かになっても、人口が増え、貨幣経済へ依存するようになる。またインドネシアやフィリピンからの労働力はかなり厳しい条件で働いている。
 国は経済指標の向上を目標に経済開発は進めようとするが、環境問題はおろそかになりがちである。

 パームオイルは現在世界の主要な油脂であり、うちインドネシアとマレーシアで生産量の80%を占める。日本では食用が87%であるが、1人あたり年間4kgを消費しているそうだ。面積当たりのアブラヤシの生産量は4トン/ha/年と大豆や菜種に比較して非常に高い。
このような植物油はカーボンフリーと言うことで、環境に優しいと言われるが、マレーシアでも泥炭湿地も多く、森林開発はCO2の排出にもつながるし、オランウータン、ゾウ、シロテテナガザルの生息場を奪うなど生物多様性の面から見ると問題がある。
開発に伴う、必要なインフラ整備も不十分で、ごみ処理や、水質汚濁の問題もある。

赴任地では、「環境啓発」に関して、環境教育の整備にかかわった。すでに色々な環境教育のプログラムは用意されていて、しかしそれらが体系立てて行われているわけではなかった。できるだけ現場に出かけていき、色々な人の話を聴いて、現地のシーズやニーズ捉えることに心がけた。投網の漁師さんからむかしや良く獲れたが、今は獲れなくなったというような話も聴いた。
 生物多様性の観点より、むしろより理解の得やすい、水源としての森の重要性や、水質の保全に焦点を当てたプログラムを考えた。水質調査にも力を入れた。そして費用の係らない生き物による水質判定を取り入れた。
関係の行政機関(教育局を含む)、大学やNGOとも積極的に連携をとり、地域の人々やこども達を対象とした、環境教育の体制づくりを行い、かなりの成果を上げられたようである。
 帰国後、JICAからの財政支援も入ったが、かえって支援がなくなると、依存性ができたためか、そのままは続かなくなった。しかし、その後、またパートナーだったNGOなどで細々ではあるが、続けてくれているようでうれしく思っている。

「エンパワーメント」という言葉を良く聞くようになっているが、開発援助は足らない分を補うというより、世界経済の影響など様々な社会的制約条件を取り除き、自身が本来持っている力を引き出すお手伝いをするということが大事だと考えているとのこと。
 
 「風土」の、「風」は外から来た人、「土」は地域に生きる人、そんなたとえが好きだ。外からの人の目で、地元の人が気づく。
 また、このような仕事は、そう簡単に結果が見えるものではなく、種をまき、芽を育てることが大事と考えるとされた。

 質疑では、折角のつながりであるので、参加者一人一人の自己紹介をし、感想なども述べてもらうことになった。
・国際協力関係の仕事をしているが、今日は実践による経験に基づいた話が聞けて大変参考になった。
・2003年から、サラワク州の森林局を窓口にして、緑の回廊づくりということで、これまで8回くらい植林活動をしている。現地の小学生に参加してもらっている。熱帯生物保全研究所の方の協力も得ている。大学はどの大学と連携されたのか。
→サバ大学。補足だが、JICAのプロジェクトとしては、すでに数億円かけて、「生物多様性保全プロジェクト」が行われている。基礎データの把握はともかくとして、大きな政策に関わることなので、簡単ではない。ラムサール条約に登録されれば、対策が少しやりやすくなると考えられる。環境教育も、その関連で行われているようだ。
・油ヤシは生産量が大きいだけに、20年くらいで土地が貧しくなる。木が高くなりすぎて、作業がしにくくなることもある・
→肥料や除草剤も多く使うようだ。捨てられた空きビンから欧米で禁止されている除草剤も使われているようだった。
・日本の環境問題を後追いしているような感じを受けた。
・食事などの地産地消の重要性を言われたが、日本に帰られて、どのように心がけていられるか。
→しばらく両親と一緒に畑を借りてやっていたが、今のポストについてからはは忙しくてその時間がなくなっている。核家族化が進むとこういうことはやりにくいと思う。その他にも買い物をするときにはいろいろ気をつけて買うようにはしている。
・大学では農学部で蚕糸を勉強したが、就職してからは化学繊維に携わった。プラスチックの処理はきちんとしなくてはいけない。プラスチックの添加剤がとくに要注意と思う。20年間酸性雨の調査をした。内モンゴルでも植林活動を行ったが、この場合は羊の過放牧が原因で森林が荒廃した。油ヤシのプランテーションについてもいまの資本主義の弊害の表れか。
→プラスチックでも缶でもすぐ分解すると思っている人が多かった。
・マレーシアと言えば、大前研一さんがマハティールさんに影響を与えた国として関心がある。環境を広く捉えてられるのはいい。本当の豊かさというのはその地の人が自ら選び取るということだと思い、その意味では良いお話だった。
・昔、タイに1年いたが、経済的に貧しいことと、幸せでないことは別と言うことを感じた。今日は若い方が、このような見方をされることに意を強くした。
→自分もこどもの時にバングラデシュに行って、そう思った。よく途上国に行って、笑顔が良かった、子どもの目がきらきらしていたという人も多いが、青年海外協力隊を経験した後、それはそれで安直だと思うことがある。最近は、幸せはそれぞれの国の人が自ら考えて選び取ることが重要なのだと思う。
・環境教育は、小学校の生徒全員を対象にされたのか。
→川の上流、中流、下流から5校くらい学校の先生と生徒を数名と村の人を、2泊3日で、来てもらってやった。上の人は、川に流すと下に流してくるからいいじゃないかと思っている。
・JICAの中で、あなたの意見は受けいれられているか。
→少数意見だと思う。大きいJICAの組織としては、むずかしい面がある。
・プランテーションは華僑系の資本によるのか。
→だいたいそのようだ。それも半島部からの資本が多いようだ。

地球環境の問題や、グローバリズムの影響が大きくなる時代、持続可能な社会をめざすためには、このような海外との繋がりについて、理解することがますます重要となると思われますので、今後、学校教育の中でも、このようなお話を聴く機会が増えるようにすることが大切であると思いました。

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