第14回環境サロン 第三部「環境保全型農業の実践例」 の概要です。
2016年01月10日
第三部は、西田布施公民館に移動し、福本卓雄さんのお話をお聞きしました。
福本さんは、岩国でのお勤め(高校教師)を定年後、田布施に戻り、「福本自然農園」を62歳で開園、環境保全型農業に取り組んでおられます。
その具体的な展開(銘柄、作地面積、取引相手、経緯等)については、配布資料(写真5に一部紹介)に詳細に記されているので、それに譲ることとして、講師が「何故、環境保全型農業に取り組まれたのか」、「これからの10年、どのような構想を持っておられるのか」を中心に紹介します。
◇岩国で教師を務めていたが、定年後(平成23年3月)、田布施に戻り、自然農園を開園した。この地の農家は、JAの「慣行栽培」一辺倒で、無農薬、有機栽培と言った新しい農業に切り替えることには、一切、関心を持っていなかった。JA自体にもそういう考えは一切なかった。
そうした中、私は、これまでの農業でない、何か別のことがやりたいとの気持ちが非常に強く、セイダカアワダチ草や萱のジャングルになっていた耕作放棄地を草刈り機で一掃した。こうして耕作放棄地の解消を行い、そこで環境保全型農業(農薬を使わないコメ作り)を始めた。
当時、耕作放棄地の復活は無理と言われていたが、全く逆で、有機肥料の「宝の山」になっており、立派なコメ(水稲)や野菜が育った。従来の「慣行栽培」では全く考えられないことで、「やって良かった」と痛感した。
そして、どんな耕作放棄地でも、水さえあれば、任せてもらえば、大丈夫と言う自信を持った。1年目こそ量的に少なかったが、2年目、3年目には質的だけでなく、量的にも確保出来た。
私は農業は「楽しい農業」でなければと思い、「楽農」を目指している。そのためのイベントも行なう。しかし、農業は趣味でなく、あくまで「経営」だから、絶対に赤字を出してはいけない。つまり「利益」を上げ、継続していかねばならない。このことが四六時中頭から離れない中で、ここまでやってきた。
慣行農家にとって肥料は使うもの、農薬は必要なものと思っているから、化学肥料や農薬を一切使わないことには抵抗がある。もし収量が落ちたら、もし病害虫がついたら、という「もし」にしばられている。私は収量より、美味しさ、安全性を重んじるので、収量は落ちる(7~8俵が6~7俵に)ことは気にならない。手をかけることにより「美味い」,「安全」と言う付加価値がつくことの方が大事と思っている。それが口コミで広まり売れていくならその方がうれしい。
今、7.5町歩作っているが、当初はJAに出荷しないため「販路」がないのに苦労した。そのために始めたのが酒蔵と契約栽培が基本の酒米「山田錦」だった。
当時(5年前)は、山田錦の栽培が難しく誰も見向きもしなかった。普通のやり方(慣行栽培)でやると、茎が長く伸びて倒れ、刈るのが非常に難しくなる。更には、「種もみ」の入手難、酒米の無農薬栽培化に対する関係者の抵抗等、苦労をしたが、何とか今日まで来ている。
無農薬・自然栽培で作ったお米で日本一の酒ができたことが一番の勲章と思っている。
・有機栽培と言うが、そのシェアーはわずか1%しかない。私は、決して「ダメ」と言う発想はしない。大いなる「伸びしろ」があると言う発想をする。広まればあっという間に広まる。その代わり「技術」が必要になる。それをチェックするのがJASで、その認定をクリアーすれば、何処にでも出すことが出来る。
・輸入トウモロコシはほとんどが遺伝子組み換えになっている。発泡酒は100%,がそれを原料にしている。健康を第一に考えると遺伝子組み換え作物の輸入は避けるべきだが、実際には経済原理が優先して遺伝子組み換えトウモロコシが市場を席巻している。
いずれ食料危機の時代が必ず来ると思う。食材の危機に対する対策の基本は、家庭菜園である。消費者に「有機の産物は高い」と言う思い込みがある。「安いものには訳がある」は農産物にも当てはまる。消費者は視野を広く持ち、賢くならないといけない。
いざと言う時、例えば「凶作」の時に、一番、頼りになるのは、家庭菜園や小さい水田である。昔の「買い出し」のようなルートを確保しておくことが必要な社会がきっと来る。
・これからは「攻め」の農業が必要。これまでと同じではだめ。酒米で味噌を作る。山田錦で作った味噌はコクがあっておいしい。山田錦で作った甘酒も良く大きな付加価値商品になっている。
・後継者不在の問題。意欲のある人を呼び込む必要がある。周防大島に石田俊文さんがIターンで帰ってきて、棚田復活に挑み、立派にやり遂げた。「百姓は、毎年、継続してこそナンボ」の世界だ。彼の今後の活躍に期待している。私の所にも、竹パウダーのことでやって来てそれ以来知己になっている。
皆さんがこれから行かれる木下嗣生さんは、自分はアサリの養殖で成果を上げながら、ヘッドハンティングを行い、凄い人を連れてきて、育てている。(大内さん:鰆の養殖に成功)
・環境保全型農業をやると、どうしてもJAと対立することになる。JAが取り組んでくれると、大きなルートを持っているだけに大きく変わるはず。JAにとっても大きなプラスになるのにやろうとしない。遺憾なことだ。JAの考えを変えていくことにも挑戦したい。
・この5年、日本各地で開かれる「自然栽培の研究会」すべてに出かけて行った。そこでは、必ず同じような考え(環境保全型農業へのこだわり)を持った人に出会う。その人たちと、損得なしの付き合いがはじまっている。今後も仲間たちと切磋琢磨しながら自然農業・有機農業を続けて行きたいと考えている。
ご清聴ありがとうございました。
(以上 作成者:山切睦彦)
質疑或いはその他の印象に残ったお話:
・エコやまぐち100は栽培期間中の条件で判定される。市場価値はいまのところさほど高くない。野菜の認定が多いが、作物中の硝酸塩が低濃度というだけでは、たとえば、野菜一束100円が120円くらい。おいしくないと150円にはいかない。大事なのは土だと思う。
・ポット苗の効果は大きかった。除草に利用したジャンボタニシは草もイネも食べるが、苗が30cm位になってから6月半ばに植えると、草は食べるが、イネは食べない。
・新井章吾さんの海藻肥料や山からの絞り水が大事だということにも注目している。
・岩手県の高橋宏之さんという県知事にも出馬した青年がいるが、非常に面白い人、都会と田舎をスクランブルする仕事をされている。
(たとえば、「世なおしは、食なおし」 https://www.youtube.com/watch?v=SKPKwUM-KRw に彼の考えが話されていて、たしかに興味深い。)
今回、お会いしてお話を伺った方々は、お互いに同志としての交流があり、よくお酒も一緒に楽しまれているようです。FBからお借りした写真でもみなさんいいお顔されています。
以前環境サロンで話していただいた新井章吾さんや、同じく仁保大富の嘉村則男さん、豊田町の洲澤育範さんも、お仲間のようで、素晴らしい人脈です。
ちなみに福本さんからお土産にいただいた「環起」は萩の澄川酒造場の銘酒です。
(浮田補追)
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