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生物多様性はなぜ大切か?
2015年03月26日
学習館の蔵書として入手した書籍を紹介します。
書籍のタイトルは「生物多様性はなぜ大切か?」です。
以下、この本を詳しく紹介した文がありましたので転載させていただきます。
「総合地球環境学研究所の所長である編者、日高敏隆氏は、この本のまえがきをこのように書き出している。
生物多様性は大切だ。たいていの本にそう書いてある。
環境破壊が進んで、生物多様性が失われようとしている。これは由々しき問題だ。どの新聞にも雑誌にも、そういうことが論じられている。
たしかに、そうだとぼくも思う。
けれど、生物多様性はなぜ大切なのか?
生物多様性が失われたらなぜ問題なのか?
あらためてそう考えてみると、さて一口には答えられない。
生物多様性の減少は、地球温暖化やオゾン層破壊、水質汚染など他の環境問題と同様に、人間の活動によって環境に生じた重大な異変の一つである。だが、大量の人工物に囲まれ、日常の環境を制御することに慣れたわれわれにとって、生物多様性の問題は他の環境問題に比べて切実さが感じられないかもしれない。
第1章の「生物多様性とはなんだろう?」では、生態学の視点から、生物多様性がどう定義されているか、なぜ問題とされているかが解説される。さまざまな「生態系サービス」のうち、生物多様性の役割が重要なものとして、薬品開発の素材や遺伝子資源、生態系の持続性や安定性への寄与、地域文化の維持などがあげられる。だが、生態系に関わる予測にはさまざまな不確実性がともない、また、どの生物種が重要か、どの程度の生物多様性が適切かなどを決めるための基準も定まってない。「生物多様性の問題は難しい」というのがこの章の結論のようである。
第2章では動物学の視点で、人間の食物と生物多様性との関係が説明されている。人間は、複雑な生物多様性の中で生まれた専門的な「雑食動物」である。肉食動物や草食動物とは異なり、さまざまな食物を食べ、いろいろな栄養分を少しずつとる生活に体を適応させてきた。したがって、生物多様性が失われたとき、人間は必要な食物を失い、やがて滅びることになるという。第2章の結論は「人間の食物源として生物多様性は大切である」ということであろう。
第3章では人間の遺伝的な多様性について、チンパンジーやゴリラなど大型類人猿と比較して解説されている。人間は地球のいたるところに分布し、個体数でみても群を抜いて成功している。だが、人間という生物種の遺伝的多様性は、ゴリラやチンパンジーよりもずっと小さい。それは、人間の急速な分布拡大が、遺伝的な適応だけでなく、環境を変えるためのさまざまな努力、すなわち「文化」によって可能になったことを意味する。「生物としての人間の成功にとって、文化の多様性が重要だった」のである。
第4章では、文化の多様性について、人類学の視点から語られる。さまざまな文化が成立することは「文化進化論」、「エデン仮説」、「環境決定論」などで解釈されてきた。だが、どの理論や仮説も「なぜ多様な文化が成立するのか」という問いには答えていない。石器時代の人類が環境の激変を乗り越えられたのは、新たな文化や重要な技術を柔軟に採用できたからである。それは、みずからの文化の多様性を維持しながら、他の異なる文化も許容し交流する能力がなければ不可能だった。「文化の多様性と柔軟な適応力を人類が維持するために、生物多様性は大切だった」と、この章では述べている。
第5章では身近な生物多様性が取り上げられている。食の多様性が低下し、「消毒」によって微生物の多様性が失われたことで、人間の健康にさまざまな問題が発生している。農業生態系では、栽培作物の種類が激減し、作物以外の生き物はほとんど見られない。中山間地では「里」の生態系が崩壊し、人の住めない深い森へと姿を変えつつある。身近な環境の「多様性喪失と不安定化」の悪循環を断ち切らなければ、われわれの生活環境は悪化していくと、この章では警告している。
この本は、「生物多様性がなぜ大切か」という問いに単純な答えはないということを示そうとしているようにも思われた。対象とする生態系に人間がかかわる限り、その生態系だけでなくわれわれの生活や文化を広く見直すことも必要になるのだろうか。」
独立行政法人農業環境技術研究所:農業と環境 No.69 (2006.1) の本の紹介より抜粋させていただきました。(P)
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