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環境サロン(世代間・地域交流)第8回「養育環境と心の病」渡辺義文さん(山口大学付属病院)の概要です。

2015年03月03日

 平成27年2月20日(金)に行われた、渡辺義文先生のサロンの概要を山切睦彦さんにまとめていただきました。かなり学術的なお話も含まれ、時間をかけて、詳しい記録を作成していただきましたが、一部省略して登載いたします。ご興味ある方は、動画をご視聴ください。https://www.youtube.com/watch?v=ceTPn8olwDA

 環境をキーワードに精神病を話すことは、なかなか難しい。今日はとりあえず、精神病とはどんな病気なのか、精神科医はどう考えているか、についてお話しする。
精神医学は偏見の歴史の中で生きてきた学問であり、私の若い頃は、仲間からも精神科医は医者ではないと言われたものだ。
 ここに来て、精神科に関わる問題が多く発生し、精神科の必要性、重要性が認識され、漸く市民権を得るようなったが、それでもまだ偏見や誤解が渦巻いている。また、心は脳の機能であるが、脳の機能は複雑で、体の病気に比較して研究が遅れている。他の臓器は脳に較べて簡単。統合失調症にしても、発達障害にしても、よく分っていないことが多い。分からないままに、ちょっと変な人にはそういった病名のレッテルを張ってしまう。

精神障害とは何か、体の病気となんら変わらない。次のように説明される。
・脳の高等な機能(思考、感情、意思、意識、睡眠、覚醒リズム)の障害。
・原因:脳自体の障害、身体疾患、精神的ストレス、
・患者は人口の20~30%あると考えられ、「明日は我が身」の病気。特殊な人の病気ではない。
精神科の病気は、昔の変な人の病気から、誰でもかかるイメージになり、精神科は商売繁盛で、山大も外来で一番患者が多い。
精神科は、他の病気がデータと症状で診断するのに対し、人そのものを見なければ診断できない。所謂「見立て」が非常に大切だ。不登校、引きこもりにしても原因はいろいろ。ストレス等、いろいろな原因を分析しなければならない。

虐待が非常に増えている。虐待の内容としては、身体的、心理的、性的、ネグレク(無視)がある。身体的、ネグレクトが統計上多いが、実情は、性的虐待も非常に多く酷い話が多い。こうした実態を知ると、正に「事実は小説よりも奇なり」。「人間、何でもあり」の感を強くする。虐待をする親は自分が子供時代に虐待を受けた者が多い。
「幼児期に虐待を受けた人」と「受けない人」とうつ病との関係を見ると、受けた人の方が、かかりやすく、重症になり、直りにくい。
夫婦は我慢してでも仲良くしないといけない。子供は親のことをよく見ているので、その責任を果たさないといけない。関係がうまくいっていない夫婦は、子供をつくるべきではない。又、親子の基本的信頼関係は極めて大切だ。子供はどんなに怒っても、決して見捨てないということを子に分からないといけない。
子どもに厳しいだけの躾では問題。子供は親の顔色だけを見る、何でもイエスマンになる。自分の考えを押さえ込んでしまい自分の考えを持たなくなる。大人になり切れないまま大人になってしまう。大人に都合のいい子は問題。子供は「子供らしさのある子」がいい。
虐待は親に問題がある。自分中心に勝手な行動をする。自分はパチンコに中で、幼児を車に放ったらかしにし、熱中症で死なしたり、子供をぺット代わりにする。こういう親の場合、親から離し、児童施設に入れると、施設ではマンツーマンで、懸命に対応するので、時間はかかるが、子は変わっていく。しかし、施設は少ないし、人手はなく(給料が低い)、限度がある。乳児院など県に一つしかない。とにかく政府は福祉には金を出さない。ケアを必要とする子供は増えるのに、これに対する対応がほとんどない、
今、オレンジプランが脚光を浴びている。認知症は癌とともに、誰もがかかりやすく、票になるので、予算が多くつくが、精神病には微々たるもの。うつ病は自殺との関係で、少し増えたが、癌に比べたら、二ケタ少ない。発達障害は漸く基本法が出来たが、予算は少ない。オレンジ法案もそうだが、当初のまともな法案が政治の中をたらいまわしの中で、全く別のものになる問題もある。役人は政治家の言いなりである。

◇うつ病
世界的にうつ病の患者数が増え、抗うつ剤の売り上げも増えているが、ノイローゼのうつ症状をうつ病と誤診されるケースが多い。うつ病は、①脳そのものの病気で脳の機能がおかしくなる。②なりやすい体質がある。③自殺の危険性が高い。④思考力が落ちる。⑤環境の変化(楽しくなる)があっても直らない。
 これに対し、ノイローゼ(神経症)は誰でもなりうる。心の風邪と言われる。思考力は落ちない。治療は効かない。カンセリングで治す。
 このようにうつ病とノイローゼは、全く異なるのに、ごちゃ混ぜになっている。WHOの国際診断ICD-10による、うつ病の拡散化の影響もある。これで神経症うつ病の人が内因性うつ病と診断された人が多い。この見分けが出来ない精神科医が非常に多い。だから医師を選ばないといけない。
 なりやすい体質の人→自分を責める、真面目で、几帳面で、皆に申し訳ないと思うような人。性格が悪く、人の悪口を言い、他人に責任を転嫁する人はうつ病にはならない。

うつ病の治療は、「薬物療法」と「休養」の二本立て。休養とは何にも考えないで、頭を空っぽにすること。これで通常1、2か月で直る。直る順番が決まっている。①気分の戻り、②思考力の戻り,③意欲の戻り。
 抗うつ剤は落ち込みを直したり、元気にする薬ではない。最大用量を飲むことが必要。中途半端はだめ。徹底して直すことが必要で、仕事や家事をしながら、治療することでは治らない。骨が折れているのに、走りながら直せと言うようなもの。

 うつ病にならない方法(なりやすい人が)は、①悩み事を抱え込まないこと、②弱みをさらけ出すこと、③もうこれ以上はダメとギブアップする勇気を持つこと、④完全主義をやめること、人生の極意は居直り。

 最近のうつ病事情として、逃避型抑うつ、未熟型抑うつ等、日本ではいろんな名前がついているものがある。今頃の若者を反映した特徴を有する。⇒自己中心、他罰的、ストレスに弱く傷つき易い(会社に行くとだめ、家では元気)、こうした理由で長期休暇に陥る若者が非常に増えている。医師はこれをうつ病と診断し、会社は「うつ病」として扱わねばならず困ってしまう。こういうケースが非常に増えている。神経症とうつ病がごちゃ混ぜになっており、間違った本まで出ている。嘆かわしいことだ。

◇統合失調症
 誤解されやすい病気である。発症率は全人口の0.8%位だが、親に精神障害者がいる子の発症率は、16.4%と一般平均の20倍にも上る。兄弟にいるが場合10%、一卵性双生児では50%であるが、なり易さが同じでも、発症するか、しないかは、生後の環境(ストレス)による。15~20才が多いが、歳をとってからの発症もある。
 統合失調症の問題点としては。
 ①ストレスに弱く再発しやすい
 ②病気であると言う自覚を持ちにくい(治療の維持が困難→再発)
 ③生活機能障害(有効な薬物療法がない)
 困るのは後遺症の問題で、認知機能障害がある。

◇広汎性発達障害の特徴
・大人の影響が大きいので、親を直さないといけないことが多い。
・世間体を気にしない。自分の好きなことだけに集中しあとは全く無関心、応用力もない。好きなことだけに集中していればそれでハッピー。(これに対し統合失調症は、他人のことが分かりたいし、分って欲しいと思う)
・小さい子の昆虫博士、カレンダー博士、時刻表博士は、将来、発達障害になる恐れがある。その中で、言語機能が落ちているのが、自閉症。言語概念がなく知的障害を起こす 対人関係が苦手、一人遊び、ひとのものまねをしない。母親の後追いをしない。多動性ADHDや学習障害が起こる。これが発達障害だが、統合失調症と重なり合う部分もあり、現在研究が進みつつある。効果のある薬もあるが、ルールを守らせる訓練をするなど療育が中心。

{質疑応答}
◇最近、『「人を殺してみたかった」と殺人を犯す事件が多いが、これは精神病的には、どうなのか。
 →こういう犯罪はほとんどが発達障害者。若者はゲームに凝り、バーチャルの世界にのめり込む。死んでも生き返ると思いこむ。殺してみたかった、それだけ。人間としての共感がない。
◇そういう人には、どんな治療をするのか。
 →「ルール」を覚えさせる。「くせ」を付けてやる訓練をする。一つのことをやらせ、出来なかったら怒るし、出来たら褒めて、褒美をやる。この繰り返し。
◇そういう犯罪は罰されるのか
 →発達障害については、刑法上の規定はないが、「減刑」になるだろう。日本は、精神障害者の犯罪に対しては、法律がなく減刑のみ。そのような犯罪人を治療する方法がなかった。最近、総合失調症のように直る病気については、殺人、強盗のような重大犯罪者のための特殊な病院が出来始めたが、発達障害は入っていない。

◇精神病患者にはどう接したらいいか
→患者を見て自分の判断で解釈しないこと。相手を丸ごと受け入れ、丸ごと理解すること。決して自分の考えを押し付けないこと。余計なことはせず、言わず、そっと見守ってあげること。「頑張れ」の押し付けは、却って「歪み」を大きくする。

◇「死ぬことが全く怖くない」と言う友人がいるが、どう接したらいいか。
→うつ病の15%は自殺願望。私は、そういう患者に対しては、はっきり自殺を話題にし、「次回、私の所に来るまで自殺しないことを約束してくれ」と言う。患者は皆、これを守ってくれる。

◇どういう精神科医がいいか。
→「はっきりした治療指針を出せない。何時までも薬を変えず、だらだらやって、何故、直らないか、その説明が出来ない」そう言う医師は失格。変えるべき。医者は直してなんぼ。直す義務がある。医師を選択することは患者の権利。セカンドオピンは大切。おかしいと思ったら変えること。
 精神科医選択のポイントとしては、①感情的に怒らない医師。②自分の話をしない医師(自分はこうだったから、あなたもこうであるはずと押し付けない人)

◇アルコール依存症の人への接し方
→昨年、アルコール依存症に関する法律が出来、政府も取り組み始めたが、まだ専門の医師も施設も非常に少ない。精神障害と言うと殆どが統合失調症で、アルコール依存症は入らない。アルコール依存症については、いろんな治療があるが、施設で、共同生活、集団生活をする中でグループの力を借りて治すしかないのではないか。

◇うつ病は昔に比べて、増えたのか、減ったのか。家庭環境が大きく影響しているように思うが、うつ病の増減とどう関わっているのか、環境サロンとしては、何故、そういう社会になったのか、その背景、原因を考える必要がある。
→数字としては、増えているが、実際に増えているのか、分らない。統合失調症をとってみると、昔と今と変わっていない。少なくとも増える病気ではない。うつ病についても同じ傾向にある。時間、背景により変化するものではない。
 日本は、親が大人になっていない未熟社会だ。米国の若者は、自分の金で、つつましやかな生活をしている。若者がレストランで食事しているなんて日本だけ。
倫理観の無い、儲ければいい経済至上主義社会。司馬遼太郎が言っているように、日本人にはバックボーンがない。何でもかんでも食ってしまう化け物。明治維新後の西洋文化、戦後の民主主義、平和憲法等が然り。しかしすべて形だけの飲み込みであり、精神は別だ。つまり、未消化の中途半端の状態。
うつ病でも英国の制度を真似て、「認知行動療法」がいいと言い出している。日本と文化、慣習が大きく違うことを考えず、形だけ取り入れようとする。だから、取り入れても広がらず、根付かない。愚かなことだ。大人に「こうであるべき」と言う信念がない。若者が大事にされ、ちやほやされる。若者が本当に将来を見据え、考え、議論することがない。こんな未熟な若者では、日本の将来はない。一精神科医として提案したいのは、日本の若者に、大学受験の前に1年間、自衛隊か、国際奉仕を経験させ、その評価を試験に反映させて、合否を決める。ラジカルだが、そういうことをしないと、日本は立ち上がれない。

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