1月8日のサロン 新井章吾さんの「里海の保全対策、全国の里海を潜ってみて」の報告です。
2015年01月11日
新井さんは、もともと海藻の生態学が専門。一般に、原生の極相の生態系は現存量、多様性は大きいが生産量は少ない。人が経済活動として適度な手を加えることで、多様性も確保しながら生産を上げることができ、里山の風景が形成された。里海も同じこと。江戸時代や明治時代の技術を再評価し、現代の技術も活用して、循環共生型の里山・里海の再生を図ることを目指して、全国を駆け巡っておられる。
今回のサロンは自分の専門分野にも近いということあり、詳しい紹介になりました。すごい情報量があり、まとめきれない部分や間違えてつたえる部分もあるかもしれないので、必要に応じて、動画を参照していただきたい。じっくり見られれば、いろいろ参考になることがあると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=p_vBrGSz-dM
阿寒湖のマリモと隠岐の島のクロキヅタ明治時代に指定された天然記念物。
マリモは観光資源として年間3億円ほどの収入に結びついている。富栄養化して透明度が下がるとマリモがやせるので、ワカサギは減るが、漁業者も理解して、下水処理バイパス放流が行われた。自然を守るのには住民の理解が必要である。隠岐の方は地元の取組が弱く、指定区域外では見られるが、区域内では見られない。
ニホンアワサンゴ3万個体ほど現存して、おそらく世界一ではないかと思う。観光化はされていないが、結構ダイバーがやってきている。
隠岐の島水深80m、高さ8.5mの間伐材魚礁(350-400万円/基)を設計し、1,2億円分設置されている。影ができるので逃げ場になる。多くの魚が集まってくる。レンコダイが一基あたり500尾とれれば42万円なので、比較的早く元がとれる。
国東半島の杵築市の日本蜜蜂の郷(狩宿里海・里山プロジェクト)では、山からの絞り水を液肥として、海藻肥料を利用して、大ぶりの良質のゆずを栽培して成功している。ネオニコチノイド系農薬は使用せず、ニホンミツバチが分蜂を繰り返している。柚子胡椒やバジル、蜂蜜も重要な生産品のようだ。作物中に化学肥料依存の場合に起きる硝酸態窒素の蓄積も起こらない。
海の養殖のカキの餌になるケイ藻やノリの栄養は川から供給されるよりも、山や段々畑からの地下水が海底の湧水としてしみ出したものから供給されていると考えている。河川から供給されるのは有機態の窒素リンが多く、地下水から供給されるのは有機物が分解されて無機態になっている。
昔は陸上で水はゆっくり流れて地下水として浸透し、それが川や湖、海に湧出して栄養塩を供給していたが、今は、護岸整備がどんどん上流へと進み、小さい水路まで三面張になり、水は速やかに流れる。地下水の補給が少なくなっている。
有機物は海に流出して海に入って、コロイド化し、巨視的有機浮遊物、ヌタになり、基質上に堆積する。昔、ホンダワラにはヨコエビやワレカラがいっぱいついていた。今は浮泥に変わっている。森林の荒廃などにより、泥の流入も多くなった。
和白干潟は博多湾東部の人工島埋立後もアサリがよくとれる。海の中道から香椎あたりまで砂地で地下水の湧出があり、巨視的有機浮遊物も少なく割に水が澄んでいる。
干潟部の陸に近い部分は陸の荒廃地からの不圧地下水が湧出し、干潟の沖側には上げ潮になると塩分が3.3%程度の栄養塩や溶存酸素を含んだ汽水が湧いてくる。
有明海や中津干潟でも同様な状況がある。中津干潟の泥の緩いところは湧水が湧いているところ。多い場所では300L/h/m2もある。カブトガニの産卵場所はそういう場所で、やや塩分は薄いが、溶存酸素のある海底湧水のあるところである。
雨水浸透ますも茨城から静岡くらいまでは、結構補助事業がやられている。東京や横浜では雨水浸透ますや透水性舗装も進んではいるが、途中地下の大規模な貯水槽にためて後で流すようになっていて、海までは届かない。東京湾の地下海水を押し上げてくれれば、硫化物の発生も抑えられるし、貧酸素の解消に役立つと思われる。
気仙沼の小泉地区では、現在は鉄道橋梁のあたりまで、汽水の湧水がありアサリもいるようだ。巨大防波堤をつくり、水田に戻すより、個人の所有地としてアサリやシジミの養殖をした方が経済的にもいいのではないかと思うとのこと。
沖縄県中部今帰仁村のハマサンゴ、西表島南風見田のガラモ場、広島県大野町のアサリなど集水域からの地下水による汽水の海底湧水によって、栄養塩、酸素の供給、さらには地下水だから水温安定の効果もある。おいしいアサリはこのような砂泥の上に生育する付着ケイ藻を食べている。
中海も同様にアサリがよくとれる。和白干潟と同様の理由である。地形に沿って地下水が湧出し、むしろ底層の方が澄んでいて、上層や沖合の方が濁っている。塩分は結構高く、溶存酸素や、栄養塩濃度がいい条件。人工干潟などでも海底湧水の条件が整っているところではうまく行く。その他、愛知県豊川河口の六条干潟や横浜の金沢八景も比較的よくアサリがとれる。
東岐波に、雨樋のない家があり、庭から水が地下にしみ通るようにしている。それが下の水田の地下を潤し、さらに海岸にも湧出する。昔からの引き継がれた知恵である。
周防大島の段々畑では水平ではなく山側に向かって少し逆勾配につくられていて、地下浸透を促し、山側にはサトイモを植えるなどの工夫がされている。山からの地下水や絞り水も、野生動物の死骸も分解して無機化した栄養塩を含んで田畑を潤し、さらには海を潤すことになる。
里山林業の関係では、これまで進められてきた森林組合に施業を委託する業ではなく、NPO法人土佐の森・救援隊の中島健造さん達が進めている自伐型林業の活動や、大分県日田市のNPO里山再生MyTea茶's倶楽部(吉田忠司代表)間伐した人工林での「半日陰農業」の取組の紹介があった。後者の場合、毎週半日集まって管理し、そろそろワラビ、ミョウガ、タラの芽、サンショウなど観光林業としても利用できる見通しとのこと。
最後に、海藻肥料の効能について、鉄などのミネラルが豊富であり、分解しやすいので、鋤き込まず、マルチのように上置きするのがいい。一時、塩害で評判が良くなかったが、それは誤解であり、鋤き込んで硫化水素が発生したことが原因であると思われる。海藻マルチはすくなめ、海草マルチは多めでいいとのこと。
周防大島、姫島、習志野、渥美、中海などで、海藻肥料を利用して農業の活性化、農業と漁業の好循環が図られつつある。
周防大島では反あたり2~4トンの海藻と人糞でお米を作っている人がいる。
霧島市では山形県の竹チッパーでチップにして好気性菌で発酵させて堆肥化し、乳酸発酵まで行かないように、米ぬかや海藻肥料を利用すれば肥料も不要である。
田布施で農林水産業をやり、直売など色々先進的に木之下さんから、多くのことを学んだとのこと。
昔からの伝統的な技術を再評価し、現代の技術も活用して、循環共生型の里山・里海の再生を図りたい。
海外でアニメが人気があるが、案外、里山・里海に原点があるのではないか。山口県も「獺祭」は世界的に有名なブランドになっている。世界が注目するようなモデルをつくられることを期待する由の、エールを送られた。
質疑:
・海藻は乾燥したものでいいか。
→乾燥したものの方がきれいで運搬の効率がよい。ごみがついていないものでいい。洗う必要はない。塩害の心配はない。だいたい夕方、浜辺に拾いに行き、地元の人が散歩に来られたら、必ず挨拶する。地域の人と繋がりができ、昔、自分が拾っていたときの話などをしてくれる。
海藻の鉄濃度は海水中濃度に比較して2万倍くらい濃縮している。カリウムも豊富だ。作物への硝酸性窒素濃度も少ない。なお、海水そのものもマグネシウムなど豊富で肥料になる。
C:(海藻中の鉄は、平均的に200ppmとして、生重量あたりは20ppm、海水中の濃度を10μg/lとするとおよそ、2千倍の濃縮率。乾物なら2万倍)
・海底湧水はどのあたりに湧くのか。
→海岸近くの地下水が関係するのは比較的浅いところに湧くが、高い山からの地下水は、もっと沖側に湧く。塩分が高いのは密度の関係で海底面下に海水があるからではないか。
C:東岐波で、この夏に孫とキワラビーチに海水浴に行ったとき、腰くらいの水深のところだが、いたるところ水が冷た~いところがあった。こういうのは海底湧水のためと思われる。
→海底湧水の冷暖房効果です。流れや波がなく遠浅の海岸では夏温まりやすいので、顕著に感じることができる。
・地下水に酸素が豊富というのは常識的にすこし理解しにくい。宇部では酸素がない状態で鉄分を含んだ水が空気に触れて赤くなっているところが多い。
→雨水は酸素が過飽和である。有機物の分解に食われるが、雨が続けば飽和に近い状態保たれると思う。状況によっては酸素収支を考える必要がある。鉄についていえば、少なくとも海に近い山からの地下水が海底から湧出できるような対策を考えていくべきではないか。
・EMや鉄団子の効果はどうか。
→どちらも対症療法的で、長続きはしない。より根本的な対策を考えるべきと思う。子どものころから、そういう基本的なことを考えさせたらいいのではないか。東岐波小学校ではこども達に湧水をとらせたり、他地域では塩を作ってもらったりしている。中学校や高校生ならもうすこし高度な調査・研究もできる。
・海藻肥料が相性が悪い例はあるか。
→海藻は分解が早いので、土に沢山鋤き込むと、分解が早く進み、硫化水素が出て作物に障害が出ることがある。上置きする場合は問題ない。
・企業が参入して、里海ビジネスとして成功している例はあるか。
→漁業の場合は、農林業とは異なり、漁場の個人所有ができないので、企業が入り込むのがむずかしい。うまく管理すると儲かる可能性があるが、何をするにも漁協の理解が必要である。
C:里海再生するにしても、漁業組合の了解が必要で、借りて使わせてもらっているという感じだ。
→本来は市民にも入り浜権があるのだが、法律の拡大解釈で、漁協がアサリの種をまいて、この30年で独占したりするようになった。和白干潟はずっと市民が何万人ととってきたので、そのまま続いている。子どもが海に親しむようにしておかなくては市民の漁業に対する支援がむずかしくなる。漁業者もこの点注意が必要だ。
・竹チッパーについて
→山形のメーカーのが120万円前後で性能がいい。竹チップと米ぬかで堆肥にしているところがある。日田では、ただでもらえる籾殻と米ぬかで発酵させて、肥料として売れるそうだ。おいしい作物ができる。
・山からの絞り水について、ときわ公園でも駐車場はときわ湖の環境に良くないと言うことになるか。
→山の上の方まで、側溝整備が進んでしまって、絞り水の利用ができなくなると、作物のできがわるい。ときわ湖もその通りだと思う。地方でこそ、透水性の舗装や雨水浸透対策を進めるべきだと思う。
・海底湧水の環境影響について、
→側溝整備の拡大がここ40年位、都市部を入れると60年程度か。渡良瀬川で高校生のころまでよく遊んだが、川でも砂が巻き上がるくらい、底からの湧水が多く、流量も多かった。今は少なくなっている。
内湾でも下から湧水があるところは、砂地になっている。粒度の細かさが同じでも、締まり方が違う。東岐波でも、アサリが減ったのは、全体に海底湧水が減ったためで、今は干潮線あたりしか湧いていないのではと思う。
底質や地形の形成は、波や流れだけではなく、湧水も寄与していることに注意する必要がある。
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