水ビジネスへの挑戦と国際環境協力への新展開 立命館大学教授 仲上健一
2013年11月08日
10月26日、宇部環境国際協力協会15周年記念講演会では、水問題の重要性の背景、現状、課題、展開について興味深いお話があり、参考になると思いますので、概要を紹介させていただきます。
20世紀は石油の世紀、戦争の世紀、21世紀は、地球温暖化・季候変動もからんだ豪雨災害、渇水、また貧困問題にも起因するが、年間180万人毎日4900人もの子どもが非衛生な水により死んでいて、「水の世紀」といわれる。
命の水をどう確保するか、水の安全保障が重要な課題になっている。人口増加・大都市化による水の物理的な不足もある。しかし、それよりむしろ貧困、不平等に根ざすものであるという認識が大事だ。安全な水と衛生設備(トイレなど)の利用に著しい不平等がある。
世界的に水道事業の民営化、ペットボトル水の普及など大きな変化が起きている。世界における60%の河川が国際河川といわれる。ドナウ川やナイル川、メコン川などである。ドナウ川ではチェコのダム、ナイルではエチオピアのダム、メコンでは中国のダム建設、利水が国際問題になっている。シンガポールはマレーシアから水を輸入している。
水は、個人レベルでは「健康」、都市レベルでは「安全な水システム」、国家レベルでは「水の安全保障」、地球レベルでは「環境保延性・持続可能性」がそれぞれ重要なポイントである。2000年ハーグで開かれた世界水フォーラムでは「世界水ビジョン」として、次の3つの目標を上げている。
1)水の利用権を女性・男性・地域社会に持たせる。
2)単位水量あたりの穀物収量の増加
3)陸上生態系の保全
より具体的な課題としては、
1)灌漑農業の抑制 2)水の生産性向上、3)貯水量増加、4)水資源管理方法の改革、5)流域における国際協力の強化、6)生態系機能の評価、7)技術改革支援
が挙げられている。
そのために、水への投資の大幅拡大が必要であるとされ、水のインフラ投資を、年間700~800億ドルであったところ、1800億ドルに増やす必要があり、うち半分は地元の民間部門と地域社会からの供給、残り半分は世界からの投資を期待するとされた。(つまり水は大きな商売になると考えられた。)
これら民営化への期待は、水の重要性から見て、これまで公共機関に委ねられてきたが、より効率性を上げるために 不可欠であるとされたわけである。この動きにより公的企業は規制され、説明責任を負い、効率的になる効果も期待されている。
水ビジネス大手企業の例として、フランスのベオリア社が紹介されたが、この会社は水事業、エネルギー事業、輸送事業、廃棄物処理事業をカバーしており、それぞれ、売り上げは1.7兆円、0.5、0.7、0.75兆円ある。
水ビジネス市場について、縦軸に資金状況、横軸に水資源状況をとって、類型整理をすると、どちらも潤沢なところは欧州メジャーがすでに優位な状況。資金潤沢で水資源不足のところが中東北アフリカ、中国都市部などで、新規欧米企業参入、欧州メジャーも参入している。資金不足で、水資源豊かなところが東南アジア諸国で欧州メジャーが進出開始中。どちらも不足しているところがアジア周辺国、アフリカでは一部を除き未進出の状況である。
フィリピンのマニラ首都圏の水道はSPCのマニラ水道会社によって運営されている。その下請けというか準構成員として、三菱商事も参加している。きっちりした契約で安定性が確保されているはずだが、条件が変われば水道料金も値上げされることもあり、庶民は水を利用できなくなるような事態もありうる。そういう人たちは盗水をしなくてはならない。
日本の水道事業の海外展開例として、東京都、横浜市、大阪市、神戸市、北九州市の例が紹介された。大阪はベトナムのホーチミン市と環境保全・水道・下水道・廃棄物処理などに関する交流促進を行っている。北九州市はカンボジアの9都市と水道基本計画に関する技術コンサル事業を実施している。
日本の水道事業の民営化の背景について、
まず水道事業の課題として、以下の3点が挙げられた。①財政の課題、②技術継承の課題、③マネジメントの課題である。
①財政の課題については、人口減少による水需要の減少と収益の減少があり、
限界集落に水供給をすることができなくなる。市町村によって経営環境の差が大きくなる状況にある。また、今後の更新事業の増大と水道事業体の抱える長期負債のために、
1960年代70年代に建設された配水施設等が更新時期を迎えるが、更新財源が充分確保されていないということである。(水道事業の料金収入が3兆円弱、総支出が5兆円、長期負債は12兆円。下水道の料金収入は1兆円弱、総支出が8兆円、長期負債は30兆円で、 年々の不足分は繰り入れ金、国庫補助金、企業債からまかなわれている。)
②技術継承の課題については、団塊の世代の退職、上下水道職員の減少、小さな市町村では技術職員は少数であることが挙げられた。
③マネジメントの課題については、「民間にできることは民間で」という流れで、H11年:PFI法施行 、H14年:水道法改正、H15年:地方自治法改正など、民間活力活用の経営手法に関する制度改正が進んできたことを挙げられた。
次に、水道民営化のパターンについては、水道事業の根幹は市町村に残る、すなわち、 基盤となる部分は公的機関が所有(基本的な設備等は自治体が所有)いわゆる公設民営が大勢ではないかとされた。水道事業の民営化は世界的な潮流であるが、完全民営化はイギリスのみである。仲上さんが1990年にテムズウォータを視察したとき、民営化させないと言っていたが、その後サッチャー時代に民営化が進められた。最近の話としては儲かっているようだが、一方これでいいのかとの声も聴かれるということだ。
水にまで、民営化の必要性が言われる中、企業の社会的責任として、投資活動においても社会・倫理・環境といった点において社会的責任を果たしていることを投資基準にするという、「社会的責任投資」に関心が高まっているということであった。
日本は海外の水ビジネスに出遅れている。厳しい契約社会に慣れていないことがあるが、一方日本人の誠実さ、倫理観、技術の信頼は有利な点である。短期決戦では負けるが、じっくり取り組めば活路はある。
日本の優れた水関連技術を政府、自治体、企業、大学、NGOによるオールジャパンの取組を推進すべきである。また、営業力を強化して世界で戦えるよう意識改革が必要であるとされた。
メコン川流域の経済開発においても、中国の影響力が増しており、日本の甘い考え方が通用しにくくなっている感はあるが、じっくり人間関係を築くことによって、存在を示すことができる。
メコン川は全長4900km、流域面積79.55万km2、チベット高原、雲南省、インドシナ半島を経て、南シナ海に注ぐ。雨期と乾期が流量差が大きい。それぞれ4750億m3、788億m3。中国上流のダムと利水により、タイ、ラオスの水力発電に影響を及ぼす。中国にすでに本流に4つのダムがある。
季候変動による被害拡大、森林の減少、利水による水位低下などが問題になっている。
中国、MRC諸国の間を仲裁する能力は不充分であるが、日本としては「グリーンメコン」を前面に出して、行った方がいいのではないか。
日本はテンポが遅い。欧米メジャーはテンポがはやく、契約もころころ変えていく。ホームページに掲載して3日間何も言わなければ、見なかったものの責任になるような世界。100~300頁の分厚い契約書、作成には300~400万円かかる。しかしこういうのも商社は結構慣れている。
最後に、国際貢献の注意点として、
上から目線の協力ではなく、ともに学ぶ姿勢が大事であること、
日本人は内容を持っているのに、おとなしいのは残念なこと(3S::Smile, Silent, Sleepy)、
国際会議等の場では、学力・気力・体力・コミュニケーション力・語学力/思いやる気持ち/ネットワーク力が重要であることが指摘され、少々語学のハンディがあっても、目の力が大事だということが印象に残った。 (文責:浮田)
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